Ecarlate
少年の疑問はもっともなものだったと言えよう。確かに、ロイではないと言うのなら、ロイがそこまで慌てる必要はないはずだ。大体、状況証拠的に、エカルラートの特徴を考えれば、ロイはかなり怪しいのだ。
「…いや、それは…、とにかく、私ではない」
ロイは言うだけ言うと、そっぽを向いてしまった。なんだかな、とエドワードは軽く溜息。
「…じゃあ、それはいいや。…で?あんた達は、エカルラートの何で、…どうして、エカルラートのことを知っているってのをばらされたくないんだ?」
この質問に、ヒューズは弱ったように苦笑いを浮かべ、首の後ろを幾度か叩いた。
「…何も聞かなかったことにする、ってのは、頼めないもんかね?」
「……。言っとくけど」
そこで、エドワードはそれまでの面白がる表情から、もっと真面目なものに切り替えた。
「オレが子供だからそれでいいと思ってんのかもしれないけど、あんた達の態度ってさ、まるでオレのこと馬鹿にしてない」
「………」
「……エド…、」
ふたりは、少年の言葉に息を飲む。ヒューズは軽く目を見開き、ロイはといえば、真正面からじっとエドワードを見つめる。それらの黒い目、あるいは黒っぽい目には、幾許かの後悔が見て取れた。
「…オーケイ。確かに俺達が悪かった。謝る」
「ヒューズ…」
あっさり謝罪した親友を、ロイが複雑な顔をして見遣る。
「…言い方を変えるぞ、エド。いや、…鋼の錬金術師」
「………」
ふざけた態度をそぎ落とし、そこには国軍中佐に相応しい厳しさを持った男がいた。
その顔と態度、空気に、挑発しておきながら、エドワードは少し飲まれるような思いを抱いた。
「これは上官としての命令だ。エカルラートのことは、忘れろ。エドワード・エルリックはエカルラートのことを何も知らないし、俺達があれに関わりがあるということはまったく知らない。俺達とエカルラートは無関係だ。―――いいな」
厳かな言葉に、エドワードは息を飲んだ。
どうしてそこまで隠そうとするのか、意味がわからなかった。
…あの一見ふざけた男が、ここまで真面目な態度を取る、そのわけが。