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continuous phase

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innocence・那月



「これは…困りましたね…」

スピーカーから音が流れなくなっての那月の第一声は困惑に染まっていた。
これが答えの一つだと言うならば、自分とは一寸違う気がするのだ。

「個性を大切に、って言われてはいますけれど…トキヤ君が答えだとすると…」

この曲の”正解”は、自分ではなく自分を支えてくれていたもう一人の自分がその答えに近い…と那月は思った。

部屋においているひよこ・ぴよちゃんの大きめなぬいぐるみを抱きしめて顔を埋める。
数十秒後、おもむろにまたスピーカーから音楽を流す。

自分は何処に居られるのだろう、と思う。
---この音の流れの中で。

楽譜に目を通す。
そこには、優しい陽だまりのような少女の姿があった。
一音一音。
世界を作り、染め上げていく。
様々な楽曲で、激しいものも知っている。
本当に色々な曲を書ける子なのだと、那月は遊園地みたいな彼女の才能もいとおしかった。

それでも今回のこの曲は…今までとは違う。
もっと身近で、まるで、

「僕の事を言っているようですね…」

まず歌詞がそうだ。
どうやら歌詞先行で作られた曲らしい。
歌詞に引っ張られてか、今までの彼女の書いてきた楽曲とは違う気がする。

(凄く生々しいですね…ハルちゃん)

口元が笑ってしまう。
彼女が誰を想って書いたのか、それは知らない。
知らなくても良い。
それに対しての答えの一つが、一ノ瀬トキヤの表現なのだ。

「それならば、僕はハルちゃんの”想った人”に近づいて、僕の”気持ち”を届けるだけですね」

先ほどまでの不安はない。
確かに、トキヤは凄い。
表現力もある、才能もある、自分にないものも持っている。

「それでも、僕はハルちゃんを渡す気はないのですから、覚悟してくださいね」

部屋に充満しているトキヤの作り出した世界に対して闘争心を燃やす。
突破口は、大切な人が作り出した音の世界にある。
楽譜に目を再度落とす。
小さい音符達が、彼女の気持ちを伝えてくる。

(あぁ、貴方はこんなにも誰かを情熱的に想うのですね…)

大切な作曲家への新しい尊敬の念といとおしさが増して行くのを感じる。
怖いものはもうない。
後は、自分なりに歌うだけ。
彼女の”大切な歌”を。


作品名:continuous phase 作家名:くぼくろ