continuous phase
innocence・神宮寺
これまた…、とレンは舌を巻いた。
事務所から渡された楽曲を聴き、苦笑しか出来なかった。
誰が歌っているかは自分が聞かなかったとは言え、事務所からは何も言われなかったので歌い手はてっきり「仮歌」の人間かと思ったのだ。
斜めに行く結果が目の前に、耳の中に広がった。
「まさか、イッチーだとは」
本当に苦笑しか出ない。
歌詞を読んだ時、静かに相手を想っているのにその「静かさ」がとても嘘臭く感じた。
「この人は寡黙な振りをしているだけだね。まるで誰かさんみたいだ」
誰かさん。
レンの中には最初二人浮かんだが、その内の一人は途中で消える。
消えた本人は、もっと表に分かりやすく出てしまうからだ。
気持ちだけがカラカラと空っぽな音をして回る事もある。
まさに空回りだと感じる。
(まぁ、小さい頃から知っているからかもしれないけれどね…)
自分の中で理由を認識する為に口には出さずに、頭の中で反芻する。
消えなかった人物、それがこの楽曲の歌い手である「一ノ瀬トキヤ」だった。
言葉数が少ない彼の中には
それは、人気絶頂だったHAYATOの姿を捨てた時点で分かりきっている事だった。
未だにあの頃の話をするととても嫌な顔をするが、それでも”あの時はアレが精一杯だっただけです”と受け入れているようだった。
「受け入れられるようになったのは…」
その理由も何となく分かっている。
この曲を作曲した、自分の想い人である存在。
彼女の存在と、その彼女の作り出す音楽が彼を変えた。
その「大きな一つの結果」を見せ付けられた、そんな感じだ。
「さて、ボスやリューヤさんは俺たちに何をして欲しいんだろうね」
切磋琢磨なんて可愛らしいものじゃないと判断出来る。
この事務所がそんな「ありきたりな事」を自分達には求めない。
だが、その裏側が見えない。
見えたところでどうしようもない。
時間だけは、どんどん進む。
リミットが決まっているのだ。
この歌に込められた想いの形を、自分なりにどう表現するか。
これはまるで「自分の愛」の形を見せろ…と言われているような、そんな気がした。
愛の伝導師である自分への挑戦、とでも言うのか。
「中々怖いね、レディ」
唇が震えている。
不意についた言葉が自分の心の奥底を表していて、レン自身少々面食らう。
でも…と喉の奥が心のそれを、底にある震えを止める。
「上等だね。ねぇレディ、君は彼の歌を聴いてどう思った?駄目だよ。
君の中に存在してしまった俺以外へのいとおしさは、俺の歌声で振り払ってあげるから」
楽譜と歌詞を一睨みして、オケトラックに飛ばし。
いとおしい人が作った輝く音の世界を体と心に、自分の中の体温を目覚めさせるように満たしていく。
作品名:continuous phase 作家名:くぼくろ