【かいねこ】海鳴り
それから五日経って、今度は以前持ってきた包みを返してくるよう言いつかる。
このところ、細々とした用事を言いつけられては、屋敷の外に追い出されているので、やはり俺と顔を合わせているのは嫌なのだろう。
俺は、何の役にも立てないどころか、邪魔な存在なのか。
気落ちしながら龍神子様の元に向かっていたら、前方から名前を呼ばれた。
「カイ兄ー!」
声の主がリンだと気づいた時には、目の前で盛大に転ぶ姿が。
「きゃあ!!」
「リン!大丈夫か!?」
慌ててリンを抱き起こし、汚れを払ってやる。
「危ないな、ちゃんと前を見てなさい」
「ありがとう!ねえ、カイ兄も祭りに来るの?」
「ああ。いろは様の守役だからね」
「そっか。ねえ、伏木様は嫌がってたけど、人形を作ってくれて良かったね!」
リンの無邪気な言葉に、一瞬ぎょっとした。
「え、嫌がって・・・・・・」
「うん。旦那様が言ってた。龍神子様に命じられたけど、何とか断れないかって相談してたみたい。でも、仕方ないよね。龍神子様のお言葉だから」
「あ・・・・・・うん」
「あたし、自分が選ばれたらどうしようって、ずっと心配だった!自分が選ばれるのも嫌だし、でも姉様達が選ばれるのも嫌だしで、祭りなんかなくなっちゃえばいいのにって思ってたけど、龍神子様は、ちゃんと考えてくれてたんだね。やっぱり優しいお方だよね!」
「・・・・・・う、うん。そうだね」
「祭りが終われば、旦那様のところに帰れるんだって!そしたら、カイ兄のとこに遊びに行くね!」
「ああ、待ってるよ。いつでもおいで」
リンの無邪気な笑顔に、胸が痛む。
いろは様は、こんな風に笑わない。彼女が笑った顔を、一度も見たことがない。
「ねえ、カイ兄はどうして外にいるの?いろは様のお側にいなくていいの?」
「え?ああ、いろは様の言いつけで、龍神子様にこれを返しに行くところだよ」
懐の包みを見せると、リンはにっこり笑って、
「じゃ、一緒に行こう!あたしも、今から帰るとこ!」
「そうだね、一緒に行こう。ほら、また転ぶよ」
はしゃぐリンと手を繋ぎ、龍神子様の元へ向かった。