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【かいねこ】海鳴り

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包みを届け、リンと別れた後、主人の家へ向かう気になれず、屋敷に戻る。
部屋に姿が見えなかったので、庭に回ると、いろは様はぼんやりと池の淵に立っていた。

「ただいま戻りました」

声を掛けると、じろりとこちらを睨み、

「何だ、随分早いな。まだ日が高いのに」

その時、脇から突然鳥が飛び出し、激しく羽ばたきながらいろは様の顔を掠めた。

「きゃあ!」

驚いて足を滑らせ、彼女の体が傾ぐ。

「いろは様!!」

急いで駆け寄り、抱き留めようと腕を伸ばすと、

「触れるな!!」

鋭い声で制止され、驚いて立ち尽くした。
目の前で、いろは様は地面に倒れ伏す。

「だ、大丈夫ですか・・・・・・?」

泥に汚れた顔を上げ、彼女はキッとこちらを睨み、

「私に触れるな。禁を犯せば、罰せられるのはお前だけではない」

その言葉に、主人とその家族の姿が脳裏をよぎった。
ただ突っ立っている俺の前で、いろは様は体を起こす。

「一人で立てる。顔を拭くから、湯を沸かしてくれ」
「・・・・・・はい」

言われるままに、台所へと向かった。




タライに湯と手拭いを入れて、彼女の側に置く。
湯に浸した手拭いを絞り、手に触れぬよう慎重に渡した。
いろは様は頷いて受け取ると、汚れた顔と手を拭く。

「着替えは、こちらに置いてありますので」
「分かった。下がれ」
「はっ」

頭を下げて自室に戻ると、自分のふがいなさに膝を折った。
無邪気に笑っていたリンと、いろは様の姿が重なる。


一体、俺は何の為の守役なのか。
抱き留めてやることも、顔を拭ってやることも出来ないのに。


何故、俺が守役に選ばれたのだ。
何故、伏木様は断らなかったのだ。
何故、生け贄を必要とするのだ。

何故、彼女なのだ。


答えの出ない問いを繰り返しながら、俺はただうなだれるしか出来なかった。



作品名:【かいねこ】海鳴り 作家名:シャオ