【かいねこ】海鳴り
気がつけば、主人の家に足が向いている。
同じ問いを発したら、主人は何と答えるだろうと考えていたら、いきなり子供達に飛びつかれた。
「カイトーーーー!!
「カイトお帰り!!」
「えっ、あっ、あの」
喜び飛び跳ねる子供達を持て余していたら、主人が出てきて、
「お前達、カイトはまだお役目が残っているのだ。困らせてはいかん」
「カイト、また行っちゃうの?」
「まだ帰ってこれないの?いつ帰ってくるの?」
「祭りが終わってからだ。わがままを言うでない」
主人に促され、子供達は渋々俺から手を離す。
「何だその顔は。何かあったのか?」
「あ、い、いえ。大丈夫です。少し、考え事をしていたものですから」
「そうか。まあ、立ち話もなんだから、家に入りなさい」
子供達を引き連れて、中に戻ろうとする主人に、俺は慌てて、
「いえ、お顔を見に寄っただけですから。すぐに戻らなければならないので」
とっさに出鱈目を言ってしまうが、主人は頷き、
「それがいい。あまりあの子を一人にするな」
「えー、カイトもう行っちゃうの?」
「やだー!カイト遊んで!」
騒ぎ立てる子供達を、主人は手で制した。
「わがままを言うでない。お前達は、祭りが終わるまでの辛抱であろう」
主人は俺に頷いて、
「お前には、帰る家も迎える家族もあるが、あの子にはそれがない。せめて、祭りの日まではお前が側にいてやれ。それが、せめてもの償いだ」
俺は、はっとして主人の顔を見る。
悲しげな目に、自分と同じ疑問を抱いたのではないかと思い当たった。
『龍神子様がどんな命を下そうと、この村にしがみつくしかないのだ』
その言葉の重みが、今更ながら胸に迫る。
俺は無言で頭を下げ、主人に背を向けると、足早に屋敷へと戻った。