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【かいねこ】海鳴り

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「何だ、もう戻ったのか。やけに早いな」

俺の顔を見るなり、いろは様はうんざりしたような声を出す。

「お前の辛気くさい顔を見ると、息が詰まるな。もっと遅くに帰ってこい」
「では、出来るだけ明るい顔を努めます」

俺の言葉に、彼女はふんっと鼻を鳴らして、さっさと本を読み始めた。


どれほど疎まれようと、俺はこの娘の側にいよう。


それが償いだという主人の言葉を、胸に刻みつける。




「もう良い。下がれ」
「はっ」

いろは様の元を下がり、自室に戻る途中で、庭の月を見上げた。
雲一つない夜空に、冴えた月が上っている。
そのまま庭に降りると、青白い輝きを眺めた。


・・・・・・彼女は、後何回、月を見られるのだろうか。


せめて晴れる日が多ければいいが、と考えていたら、ばたばたと足音が響く。
ハッとして振り向くと、いろは様が顔色を変えて走ってきた。

「何事かありましたか!?」

驚いて問いかけると、彼女はぴたっと足を止める。

「に、庭に人影が見えたから・・・・・・曲者かと勘違いしたのだ。紛らわしいことをするな」

苦々しげに言い捨てて、部屋へ戻っていった。
本当にただの勘違いだろうか、万が一のことがあったらと思いを巡らせていて、はたと気づく。


俺の部屋に行ったのか?
俺の部屋に行って、姿が見えないのを心配したのか?


気づいた時には、いろは様の部屋へ向かっていた。


「何だ。目障りだから下がれ」
「いえ、曲者が忍び込んでいることがあれば、一大事ですから」
「・・・・・・私の勘違いだ」

不機嫌な声で言われるが、「万が一のことがありますので」と返し、彼女の後ろに控える。

「勝手にしろ」

いろは様はぷいと顔を背けて、また本を読み始めるが、首もとが赤く染まっているのが目に付いた。


この娘も、他の者と変わりないのだな。


当然といえば当然のことに、今更気づく。
そして、彼女の身に降り懸かる運命が、殊更惨いものに感じられた。



作品名:【かいねこ】海鳴り 作家名:シャオ