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【かいねこ】海鳴り

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祭り前日。
その日も、いつもと変わりなく過ぎていく。
夜、明かりを灯して本を読む彼女の後ろ姿を、俺は黙って眺めていた。

「明日で、おまえの役目も終わりだな」

いろは様の言葉に、俺は頭を下げ、

「未熟者故、不自由な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いや、お前は良く努めてくれた。礼を言う」

珍しい物言いだが、からかう気にもなれない。
何も言えず押し黙っていたら、

「祭りの時は、お前の主人も来るのか?」
「はい。何事もなければ」
「そうか」

ふと本をめくる手を止め、いろは様は天井を見上げる。

「羨ましいな。お前には、帰る場所があるのだな」
「ええ」


・・・・・・初めてだな。彼女が、自身の心の内を見せるのは。


「私には、何もないからな」

悲しむでもなく、淡々と言葉を続けた。


何もないのだろうか。
彼女には、帰る場所も、心を寄せる相手も。


「いいえ」

腕を伸ばし、いろはを後ろから抱き締める。

「お前には、俺がいる」

ハッと息を呑む音がするが、構わず腕に力を込めた。

「お前を生贄になどさせない。俺が守る」

折れそうなほど細い体が、微かに震える。

「・・・・・・今すぐ離せ。お前の主人も、咎を受けることになるぞ」


旦那様、奥方様、子供達。
俺の大切な人々。
禁を犯せば、この村を追われることとなるだろう。


・・・・・・それでも。


「どのような謗りを受けようと、お前を離したりはしない」
「このっ、たわけが」

いろはは俺の腕を掴むと、ぽろぽろと涙をこぼし、

「・・・・・・嫌だ。嫌、怖い、死にたくない。助けて。カイト助けて」
「大丈夫だ。俺が守るから」

すがりつく彼女を、強く抱き締めた。



作品名:【かいねこ】海鳴り 作家名:シャオ