【かいねこ】海鳴り
泣きじゃくる声も徐々に落ち着き、いろはは俺の胸に顔を埋めたまま、「カイトのことを、話してくれないか」と言う。
「どんなことを?」
「何でもいい。カイトが生まれてから、これまでのことを聞きたい。どんな小さな事でもいい、知りたいんだ」
「そうか」
いろはの髪を撫でながら、主人に作られてから今までのことを、思い出せる限り話した。
夜が明け、俺は龍神子様の元へ向かう。
禁を破った以上、いろはを生贄として捧げることは出来ない。
そんなことはさせない。
祭りが始まるのは夜。その前に龍神子様にお会いしなければならないが、龍神子様の屋敷は男子禁制。よほどのことがなければ、立ち入ることは出来ない。
何と言えば会えるだろうかと思案していたら、メイコが出てきた。
「ああ、おはよう」
「おはよう。龍神子様が呼んでるから、来て」
「は?」
驚いて声を上げると、メイコは苛ついた様子で、
「いいから来てよ。こっちも忙しいんだから」
「あ、ああ」
言われるまま、メイコの後をついていく。