【かいねこ】海鳴り
「偽りの相手を求めて、一時乾きが収まったとしても、お前の心が安まることはない。私は、お前の求める女ではない」
いろははミズチへ体を向けると、静かな声で言う。
「お前がしていることは、愛しい相手を裏切る行為だ」
その言葉に、ミズチが苦しげに身を震わせ、
「ぐ・・・・・・ああああああああああああああああ!!!」
「いろは!!」
ミズチの巨大な頭がいろはへと降り下ろされる前に、彼女の体を抱き寄せた。
「なっ!?カイト!?」
「隠れていろ!!」
いろはを自分の後ろに押し込み、ミズチへと刀を構える。
「ああああああああああああああああああああ!!!」
首を反らせて身を震わせ、ミズチは再び頭を降り下ろしてきた。身をかわして刀で切りつけるが、堅い鱗に弾かれてしまう。
「くそっ!」
どんなに切りつけても、ミズチは構わず向かってきた。
「カイト!もういい!逃げろ!!」
「馬鹿を言うな!お前を置いていけるか!!」
闇雲に振り回しても、ミズチに傷一つ与えられない。
奴の頭が下ろされた隙に、巨大な目に刀を突き立てた。
狙い通り、ミズチの目に刀が刺さる。
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
雄叫びとともに頭を振られ、刀が抜けた。
慌てて握り直すが、間近に開かれた口が刀をくわえ、バキリと刃を折られてしまう。
「くっ!」
折れた刀を投げつけるが、ミズチは意に介した様子もなく頭を振り上げた。
せめていろはだけはと、彼女の体の上に身を投げ出す。
その時、
「お前様、妾はここにおります」
恐る恐る目を開ければ、龍神子様がミズチに腕を回していた。
「あ・・・・・・ああああ!あああああああああああああ!!」
先ほどまでの怒声ではなく、喜びに満ちあふれた声をミズチが上げる。
龍神子様は俺の方を向くと、頷いてみせ、
「さあ、共に参りましょう。二度と妾を離さないで」
そう言うと、ミズチを促し渦巻く海水へと身を沈めた。
「龍神子様・・・・・・」
いろはの微かな声が、洞窟にこだまする。
何事もなかったかのように辺りは静まり返り、渦も消えてしまった。
「助かった・・・・・・のか?」
ふと体の力が抜け、地面に座り込む。
龍神子様とミズチ、どういう間柄なのか分からないが、助かったことだけは確かなようだ。
「いろは、大丈夫か?」
声を掛けた瞬間、いろはの体が揺らいで倒れ込んでくる。
「い、いろは!?」
慌てて抱き止めるが、俺もまた強烈な眠気に襲われた。
えっ?なっ・・・・・・
目の前が暗くなる中、倒れるいろはへと腕を伸ばす。
いろ・・・・・・は・・・・・・