【かいねこ】海鳴り
「・・・・・・ト!カイト!」
ハッとして目を開ければ、主人が呆れ顔でこちらをのぞき込んでいた。
「何を呆けているのだ。日に当たりすぎたか?」
「え?あ、いえ」
見回せば、そこは主人の家の縁側で、子供達が庭の隅で何やら土を掘り返している。
「龍神子様の元に、新しい人形が納められるそうだ。伏木の奴が大層な口を利いていたから、顔を見てやろうではないか」
主人の言葉に、いろはの事を思い出した。
一体、自分はどれほど意識を失っていたのだろうか、いろはは無事なのだろうか、と。
「祭りはっ!祭りはどうなりましたか!?」
「はあ?」
訝しげに眉を寄せた主人は、次の瞬間大笑いして、
「まだ一月も先の話ではないか。そんなに楽しみなのか。まるで子供のようだな」
「え?」
「さあさあ、そんな先の話より、今は龍神子様の元へ参ろう。愛らしいおなごの人形だそうだからな。お前も顔が見たいだろう」
訳が分からぬまま、主人に腕を引かれて立ち上がる。
龍神子様の屋敷に来ると、主人は躊躇いなく門をくぐっていった。
「あ、あのっ、許しもなく立ち入るのは」
「何を言っておるのだ。人形が奉納される時は出入り自由、昔からそう決まっておろう」
「えっ、え?」
確かに、屋敷のあちらこちらに村人が集まって、賑やかに談笑している。老若男女問わず笑いさざめくその光景に、目眩いを感じていたら、
「人形が到着したぞ!」
誰かが声を上げ、人々が動き始めた。
人波に乗って声の方へ行くと、
「見ろ、あの得意げな顔を。よほど満足のいく出来なのであろう」
主人がくすくす笑いながら示した先に、胸を張り自信に満ちた顔の伏木様が見える。
「伏木!自慢の人形は何処にいる!まさか、完成が間に合わなかったのではあるまいな?」
「大瀬か。お主の目は、頭の後ろにでもついているのか?此処に連れてきておるだろう。さあ、皆に顔を見せよ」
伏木様の後ろに付き従っていた人形が、すっと一歩前に出た。
「いっ・・・・・・!」
声を上げる前にいろはがこちらに気づき、唇に指を当てて、黙っているよう示す。
「ほう、お主には不釣り合いなほど愛らしいな」
「俺はお前と違って、手先が繊細に出来ておるのよ。龍神子様に献上するのは、やはり娘人形でなくてはな」
「ふん、ぬかしおるわ」
主人達の軽口を聞きながら、俺はそっと場を抜け出した。