【かいねこ】海鳴り
それから数日、村中にどこか緊張した空気が漂う。
主人は口数が減り、部屋にこもることが多くなった。
子供達も異変を感じたのか、いつもの元気がない。
真綿で首を絞められているような息苦しさの中、祭りまで一ヶ月となった日、主人ら人形遣い達が、龍神子様の元へ呼ばれた。
今日、生贄が選ばれる。
龍神子様に仕える人形の中から、一人。
「ねえ、カイト。今日、誰かが選ばれるの?」
子供達が両側に座り、俺の腕にもたれ掛かる。
「・・・・・・はい。でも、大丈夫ですよ。選ばれるのは、龍神子様に仕える人形ですから」
俺の言葉に頷くも、子供達は顔を押しつけて、
「選ばれた人形は、死んじゃうんでしょう?」
「そんなの可哀想。お祭りの日が、来なければいいのに」
「そのようなことを」
言ってはいけないと叱りつけて、何になるのだろう。
俺は言葉を切ると、子供達を抱き締めた。
夕方、玄関先がにわかに騒がしくなる。
「カイト!カイト!」
主人の呼ぶ声に、慌てて表に飛び出した。
「どうなさいましたか!?」
「お前が守役に選ばれた。今すぐ屋敷へ向かえ」
「は?」
一瞬、訳が分からず立ち尽くすと、主人に腕を取られる。
「いいか、守役は生贄となる人形に触れてはならん。それだけは肝に銘じておけ。必要な物は後で届けさせる。さあ、時間がない。急げ」
「あ、あのっ!生贄には誰が!」
せき立てられ、それだけ聞くのが精一杯だった。
主人は、俺を門の外に押し出しながら、
「伏木の作った人形だ。龍神子様に仕えている者達ではなく、新たに作らせたらしい」