【かいねこ】海鳴り
包みを手に帰ろうとして、日が暮れるまで戻るなと言いつけられているのを思い出す。
・・・・・・どうするかな。
考えながらも、足は自然と主の家へと向かっていた。
子供達は、海岸へ遊びに行ってるだろうか。理由を言い聞かせる間もなかったから、駄々をこねていたかも知れない。
ほんの数日離れていただけなのに、もう会いたくてたまらなかった。
足早に門までたどり着くと、そっと中の様子を伺う。
「カイト?」
「ひっ!」
横から声を掛けられ、驚いて声を上げてしまった。
主人の大瀬が、笑いながら俺の肩を叩き、
「何だ、たった一月も我慢が出来ないのか」
「い、いえ、あの、いろは様の言いつけなのです。日が暮れるまで、戻ってくるなと」
俺の言葉を聞いて、主人は顔を曇らせる。
「・・・・・・そうか。可哀想にな。気が立っているのだろう。お前も大変だろうと思うが、辛抱してくれ」
「いえ、俺は大丈夫です。俺は・・・・・・祭りまでの辛抱ですから」
「そうだな」
主人は俺の腕を取り、
「上がっていけ。そこらをうろつかれては、役目を放棄したのではないかと、あらぬ誤解を受けるからな」
「はい」
中から奥方様も出てきて、俺を歓迎してくれる。
子供達は、やはり近所の子と、海岸へ遊びに行ってるそうだ。
「最初は、子らもぐずっていたがな。良く言い聞かせたら、幼いなりに理解したようだ。祭りが終われば帰ってくると、納得するまでが大変だったな」
「そうでしたか」
「夜も、ちゃんと一人で寝ているそうだ。今までは、お前が側にいないと、大泣きしていたのにな」
「いつの間にか、大人に近づいているのですね」
主人は、ふと視線を逸らし、
「伏木も、気の毒であったな。人形遣いにとって、人形は我が子同然。まして、このいないあいつには、実の子を取られるようなものだろう。俺は、あいつの顔をまともに見れぬよ」
その言葉に、あの夜見かけた伏木様の顔を思い出す。
やつれて面代わりした様子は、確かに胸の痛むものだった。
「・・・・・・だから、俺は男の人形しか作らんのだ。龍神子様に奪われぬ為にな。皆からすれば、俺は卑怯者だ」
「え?」
驚いて、主人の顔を見る。
今の今まで、主人は女の人形を「作れない」ものだと思っていた。
俺の視線に気づいたのか、主人は苦笑いを浮かべ、
「他の者達は皆、龍神子様の命令で人形を作り、献上した。本心から望んで差し出した者など、いないだろうな。それでも、この村以外に居場所などないのだよ。余所では、人形遣いは禁忌に触れる者として、忌み嫌われる。そいつの作った人形は、欲しがるくせにな」
主人は視線を逸らし、苦々しげに言葉を続ける。
「龍神子様は、我らに終の住処を与えて下さった恩人だ。だが、同時に我が子を奪い去る、恐ろしい存在よ・・・・・・」