梅花
その時。
「うおおおおっ、なんじゃコリャア!」
銀時の騒ぐ声が聞こえてきた。桂は重い気分で、銀時のほうを向く。
「見ろよ、コレ!」
銀時は桂の眼の前に自分の引いたおみくじを突きつけた。
凶、と書かれている。
「正月早々ひどくねー?」
「……日頃の行いが悪いからだろう」
「なんだソリャ! 冷てーなァッ」
やけに大げさに銀時は嘆いて見せる。
「なあ、ヅラ、銀サンが可哀想だと思わねーか?」
「ヅラではなく桂だ。それに、ちっとも可哀想だとは思わない」
「そんな意地を張るなよ。素直になれよォ」
「俺は常に素直だ」
「またまた。……だからさァ、可哀想な銀サンをなぐさめるために、愛してるって言ってくれ」
「断る」
「即答かよ!」
銀時は噛みつくように言ってから、ふらりとよろめく。その手から、凶のおみくじが宙に舞った。
再び銀時に手を握られて、桂は拝殿へ向かう。
「なぜ、いちいち手をつながなければならないんだ」
「手ェ放したら、お前、また変な男に引っかけられるんじゃねーの」
「俺は男に引っかけられてなぞ、おらん!」
「自覚がないってのが一番あぶねーんだよ」
桂が抗議しても、銀時は聞き入れない。
拝殿付近に到着すると、人垣ができていた。だが、参拝が終わると人は立ち去るので、桂と銀時はわりと早く神前に出る事ができた。
桂は賽銭箱の前に立つと軽く会釈をし、賽銭を投げ入れる。そして、二拝二拍手一拝をする。最後の一拝の時、まわりから、「おおっ」というどよめきが聞こえてきた。なにかと思い、サッと身体を起こす。
男が大量の紙幣を賽銭箱に降らせていた。
「わしはケチくさい事が嫌いやきなァ」
そう言うと、アッハッハッハッと高らかに笑う。
桂も銀時も、そのモジャ頭の男をよく知っていた。
驚きのあまり硬直する二人に、すっと振り袖姿の女が近づいた。
「……あれは某星の紙幣で、今その星はインフレやき、あれでコーヒー一杯分ぐらいじゃ」
「ケチくさいのはテメーだろって事かよ」
気前よく某星のお札をバラ撒いている坂本を、銀時は呆れたように眺めた。
結局、銀時と桂の二人がかりで、躁状態の坂本を拝殿から連れ去った。
「いや〜、金時、久しぶりじゃの〜」
「だーかーら、俺が金時だったらジャンプは回収騒ぎになるだろーがよッ」
銀時の拳が坂本の顎を強打し、坂本は空高く飛んでゆく。
地面に叩きつけられた坂本は、それでも何事もなかったようにムクリと起きあがる。そして、ヘラヘラ笑いながら近づいてくる。
「……不死身か、おまんは」
陸奥がボソッと呟く。
その陸奥を桂が見ていた。
「ヅラと陸奥が顔合わせるのは初めてじゃけーのー」
そう言いながら、坂本は桂と陸奥の間に割って入る。
意外だと、銀時は思った。てっきり桂は陸奥と面識があるのだと思っていた。
「ヅラではない、桂だ」
「その名前はよお聞いちゅう。やけど、小太郎いう名前やき男だと思っちょったが、女じゃったがか」
その陸奥の台詞に、桂のこめかみがピクリと動いた。
あ、ヤベ。銀時は陸奥を心配する。陸奥は桂の逆鱗に触れる事を口にした。たとえ、確かに女に見えようが、それを言ってはならないのだ。
しかし、桂は陸奥のほうに行かず、坂本につかみかかった。
「貴様の社員教育はどうなっているのだ」
坂本を見る桂の眼は、研ぎ澄まされた刃のようだ。
だが、坂本はまったく動じない。
「わしは腹芸は苦手じゃけー、快援隊のやつらには思っちゅう事を正直に言えとゆうてあるんじゃ」
「ほほう、では彼女の言ったのは正直な感想だと?」
「そうじゃ。ヅラもいい加減、自分は女に見えるっちゅー事を認めたらどうじゃ?」
「……銀時、このバカをもう一発殴れ」
「オウ、分かった」
銀時はバキバキと指を鳴らす。
「なんじゃ、二人して物騒じゃのォ〜」
アッハッハッと笑う坂本の頬に、銀時は鉄拳をお見舞いしてやった。顔を大きく歪めて、坂本は再び空高く飛んでいった。