吾輩は猫である
上着に付着した、俺の毛を叩きながら、吉羅は淡々と言った。
コイツ……。
もしかして、俺を笑うためだけに、わざわざここまで出向いたのか?
「みゃぁぁぁっ、にゃぁ!」
(待て! 吉羅!)
「……ああ、そうでした。建物の中は出入り禁止ですからね。たとえ金澤さんでも見つけ次第、つまみ出しますので、ひとつ宜しく」
そう言って踵を返すと、早足で立ち去ってしまった。
静かな、静かな、森の広場。
見上げた高い空は、相変わらず……腹立たしいほどに青い。
「みゃぁぁぁ……」
困ったことに、これは夢じゃなくて、現実だった。
――吾輩は猫である。名前はまだない。