吾輩は猫である
微かに揺れる水面に映った俺の姿……それは紛う事なき、雑種の猫だった。
ここの水を飲むのは……うん、今はまだ、止めておこう。それは最終手段だ。
「ヒロさん、危ないっ!」
ふいに、日野の鋭い声が飛び込んできた。
何だ――?
俺が振り返るよりも早く、後頭部にスコンという音と衝撃が広がる。
気がつけば、揺れる水面が鼻のすぐ先まで近付いていて……。
古池や、ケモノ飛び込む、水の音
――それは一匹のケダモノ(=俺)が池に落ちる、水の音……。
「んにゃ! んにゃにゃにゃぁぁぁ……」
俺は激しくもがきながら、溜め池の水底へと沈んでいった。
吾輩は猫である。名前は「ヒロ」
それが何に由来するかは、語るまでもない。
と、まあ、そんなことよりも……。
今はまず、泳げるかどうか。それが問題である。