お節介な贈り物
金澤は忌々しそうに吉羅を一瞥すると、持っていた航空券を封筒に戻し、白衣のポケットにねじ込んだ。
「……お前には、バター飴で十分だ」
頭を振ってぼそりと吐き捨てると、踵を返した。
「日野、待たせたな」
理事長室のドアを後ろ手で閉めた金澤が廊下に出ると、案の定、青い顔をした香穂子が震えていた。
「先生、どうしよう……」
「まあ、お前さんの動揺も分かるが、上が決めたことだからな。ここはひとつ、素直に従うしかないだろう」
自分の方が遙かに大人――香穂子の倍近い齢を生きているのだ……である。動揺しているのは金澤とて一緒であるが、せめて表面上は余裕を取り繕う必要があった。
「そう心配しなさんな……」
香穂子は顔を上げると、真剣な眼差しで金澤を真っ直ぐに見つめる。金澤は安心させるように、精一杯の笑顔を彼女に向けた。
「でも、私……飛行機に乗ったことがないんです」
「――そっちかよ!」
香穂子の告白に、金澤は思わず肩をガックリと落とした。