お節介な贈り物
少し猫背気味な彼の広い背中は、放課後、生徒たちから逃げ回るそれと変わらなくて、香穂子を安心させた。
「ああ、そうだ……日野」
廊下に出る寸前で、思い出したように、足を止めて引き返す。
「はい……?」
「着替えたら、一度ホテルに行って荷物を置いて、それから出掛けよう」
この後、コンサートの参加者には、打ち上げの席が用意されている。当然、二人も誘われたがこれを丁重に辞退し、代わりにお勧めのラーメン屋を教えてもらっていた。
「えっ……?」
「頑張ったらご褒美をやるって約束しただろう。まあ、形に残る物は贈ってやれないからさ、特別にデートしてやるよ」
「先生……」
背後に立つ金澤がどんな顔をしているのか、香穂子には分からない。
「お前さんも早く出られるように、準備しろよ」
そう言い残して、今度こそ楽屋を出て行った。
金澤は「観光」ではなく、「デート」と言ってくれた。
その一言が嬉しくて、香穂子は涙を零しそうになった。