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『ごめんなさい。これが最後の愛し方だったから』

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「なんで! 何でなのよ咲夜! どうして! ねぇ、どうして! 私の事愛してるって言ってくれたじゃないのぉぉ゛ぉ!」
 止めどなく紅が溢れ出す。フランの双眸から。咲夜の胸から。
 普通の人間なら既にショック死してもいいものだが、咲夜は未だに意識を保ったままだ。
「さぁ、どうぞお召し上がりくださいませ。フランお嬢様。これでいくらか血が抜けて軽くなりましたから」
 咲夜は思う、これで良いのだと。にっこりと、瀟洒に微笑む。
 フランは自分を殺したくないと、想ってくれた。愛してくれた。
 何より咲夜の肉を欲していたはずなのに。咲夜を犯したくない一心で。
 その想いを遂げるために、肉体に巣くう狂気を打ち負かしてまで。
 それには、どれだけ強固な意志が必要なことか。
 咲夜は先ほど、フランを肯定することを決めたのだから。
 ならば、もう咲夜はフランの想いを叶えてやるべく行動するだけだ。
 咲夜はフランと添い遂げることを選択したのだ。自害はその手段に過ぎない。
 フランが咲夜を害するのを由としないのならば、その役目は自分で受け持つ。
 惜しくはない。痛みもない。どんどん熱量が失われていこうと、幸福と充足感が身を満たす。
「なんで! 私は! 私は咲夜を殺したくなかった! 咲夜は人間のまま死にたかったんじゃなかったの!」
 フランは金のサイドテールを振り乱して噎び泣いた。嗚咽で言葉が詰まる。それでも、喉がつぶれても、叫ばずには居られなかった。
「フランお嬢様、私はどちらにせよ、そう長く、貴女の側に仕えていることはできなかったんです」
 咲夜はぽつぽつと、次第に蒼くなっていく唇で呟いた。
「それはどういう――?!」
「私の時を操る能力は、肉体に著しい負荷をかける代物でした。それは神をも畏れない、とても罪深いモノ。そんな私が、矮小な卑徒の身のまま天寿を全うするなどと、烏滸がましい夢を見ていたのです。どうです、滑稽でしょう?」
 咲夜の能力は人の身には余るものだった。
 そのあまりに強大な力は咲夜の肉体を着実に蝕んでいた。
 彼女に老いることは許されない。人の寿命を迎える前に崩壊する。
 今はパチュリーの薬で進行を遅らせているが、それでも十年持つか持たないか。
 咲夜は決断を迫られていた。人として終わりを迎えるか。
 それとも、悪魔と契りを交わして自らの時を止めるか。
 もう、決断に障害は何も無かった。
 全て、フランが破壊してしまったのだ。その儚げな笑顔で。
 咲夜の人間に対する執着も、レミリアにのみ向けられるべきだった忠誠心も。
 あの笑顔に報いるためなら、たとえ総てを捨て去っても惜しくはない。
「咲夜ぁ、やだよぅ! 死んじゃやだ! 私を独りにしないで! お願いだから!」
 フランは咲夜の胸で泣きじゃくった。咲夜の胸の紅と、フランの眼窩から流れ落ちる紅が混じり合う。
「せめて、この私にお情けを、頂けるなら――」
 咲夜は、つい、と首筋をフランに向けて差し出した。
「私を、貴女と同じ所まで連れて行ってください」
 咲夜は青ざめた顔でにっこりと、最期の笑顔を浮かべた。
『ごめんなさい。これが最後の愛し方だったから』
 これがフランに対して、咲夜が応えうる限りの、本当の『愛』
 永遠という罪をその背に負って、この優しい吸血気と添い遂げることをここに誓う。
 咲夜は朗々と呟く。儚げに、切なげに。でも、とても嬉しそうに。

『ずっと私の側に。あなたと生きたいの――』


 ――フランは、咲夜の首筋に痕を付けた。




「ごめんなさいね、なんか嫌な役を押しつけちゃって」
 誰も居ないはずの寝室で独り呟くレミリア。
 闇が収束して人の形を得る。ファイは何食わぬ顔でレミリアの前に出現した。
「いいのよ別に。私も結構楽しませて貰ったし。……本当に、私が言うのも難だけど、酷い姉よね貴女。あのままフランが自らを壊して闇の中に沈めてしまっていたかもしれないのに」
 レミリアは自嘲気味に微笑む。
「私には運命が見えるのよ。そんなことあるはずもないわ。私はこれでも誰よりもフランを愛してるつもり」
「――呆れた。まあいいわ。さぁ、私にリボン付けて頂戴。この姿のまま外を歩いた日には、あのスキマに何されるか解ったものじゃない」
 そう言って長身の美少女はレミリアの足下にかしずいた。
 レミリアが手のひらを翳すと、そこにどこからとも無く紅いリボンが出現する。
 リボンをファイの髪に結びつけると、その姿は闇に飲み込まれて一瞬見えなくなる。
「あーあー、やだやだ。私はいつまでこの姿で夜を歩かなければいけないのっ!」
 今までの大人びた少女はどこかに成りを潜め、レミリアとあまり大差ない身長の、幼い容貌の少女がその場に出現した。
「この幻想の地が潰えるまでじゃないの。――ルーミア」
「そーなのかー」
 その身で十進数を体現し、屈託のない笑顔を漏らした少女は、もう用は済んだとも言いたげにその身を闇に包み、レミリアの前から消え去った。
「全く、現金な娘。少しは話し相手になってくれてもいいじゃない」
 その時、レミリアの寝室のドアがノックされる。
「入って」
 夜中に吸血鬼を訪ねる来客を、喜んで招き入れる。
 ゆったりとした寝間着に身を包んだパチュリーだった。
「全く、不器用なんだから、レミィは」
 あきれた、と言わんばかりに溜息を零すパチュリー。
「あら、それは何の事かしら」
 パチュリーはあくまで白を切るレミリアに歩み寄り、その身を抱き寄せた。
「……馬鹿。寂しいならそう言えばいいのに――」
 パチュリーの胸に顔を埋めたレミリアは、最初の内は静かなモノだったが、ふるふると震え始め、その内、細々とした嗚咽が聞こえるようになり、最終的に館を震撼させかねないような号泣になった。
 びぃびぃ泣きじゃくるレミリアに眉を顰めるパチュリー。レミリアを抱きかかえたままの態勢でベッドに移動して腰掛ける。
「フラン〜! 咲夜ぁぁ゛ぁぁあぁ゛ぁぁ! うわぁぁぁ゛ぁあぁ〜ん!」
 もう、吸血鬼始祖の威厳もへったくれもなかった。
 びぃびぃびぃびぃやかましい。ただ姿相応の童女の様にひたすら声を上げて感情を吐露する。パチュリーはそんなレミリアの頭を優しく撫でた。
「良いのよ、今だけは泣いても。貴女は貴女の王道を征ったのだから、ね……」
 王とは本来孤独なモノであると誰かが言った。
 そう、レミリアは咲夜の為、フランの為、運命をその手で操り、結果二人は結ばれた。
 だが、王たるレミリアは優しすぎた。他人を優先しすぎた。
 それ故に、最後には、彼女の手の中には何も残らない。
 優しさも、温もりも、全て他人に分け与えてしまうから。
 それが貴顕の責務だと。レミリアは信じて疑わなかった。
 嘗て、父がそうしたように。彼女は孤高の王道を征く。
 本当は、咲夜を自分のモノにしたかった。
 だけど、それでは誰がフランに愛を与えてやれるというのだ。フランに対する接し方、愛し方が解らない不器用なレミリアには、こうするほかに手がなかったのだ。
「咲夜ぁ゛ぁぁ゛あぁぁ゛ぁぁ〜! 寂しいよぉぉ゛ぉぉお゛おぉ!」
 パチュリーはその小さな身体を抱きしめたまま、ひたすら泣き止むまで付き合った。