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それは永遠に秘密です。〈それはあなたの忘れ物。UP!〉

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彼はデートのたびにあたしにプレゼントを持ってきてくれたわ。
あたしは彼からプレゼントされた物が、どれもこれも大切で、まるで宝物のように扱った。
彼からもらったものをベッドの枕元に並べて、満足げに眺め、愛しんで眠ったわ。
あたしは本当に世界一しあわせな女の子。
そう確信していた。
夢の世界に浸ってた。
あの頃、本当にあたしには彼しか見ることができなかったのね。
それこそ、彼からガラス玉ひとつもらっても、その時のあたしにはそれが最高級品のダイアモンドに見えた。

どんどん彼と逢瀬を重ねるたびに膨れ上がっていく思い。
好きという気持ちが大きくなることを止めることができなかった。
その頃のあたしは、彼と結婚するんだと信じてやまなかった。
少し身分違いだと解っていても、彼があたしに、こう話したのよ。
「リナ。俺はお前と結婚する。」って。
私は彼と共に生活することを夢に思った。

でも、よいことって長続きしないものね。
いつの時代もそう。

しばらくしてよ。
悪い噂を聞いたの。
本当に耳を塞ぎたくなるほどの悪い噂。
その頃のあたしにとっては特にね。
『彼には婚約者がいる。』って。

あたし、その噂を聞いて、いても立ってもいられなくなって彼の住む家をこっそり訪ねて行ったわ。

でも、あたしはその家を遠くから見ることしかできない。
大きな家だった。
家じゃないわ。
それは屋敷ね。
あたしは、まだ、彼の両親には紹介されていない娘。
彼の家の呼び鈴を鳴らすことは、とてもできなかった。

あたしは、じっと見つめたわ。
その屋敷の窓を。
そして、ちらっと見たの。
長い黒い髪の綺麗な女性を。
まさか?!と、思ったけれど。
彼の家はとても大きな家だったので、きっと使用人かもしれないと都合よく思ったわ。
でも、胸がどきどきしていて、黒い思いがあたしの胸を渦巻いていた。
あたしは、片手でこぶしを握り、胸に手を当て、高鳴る不安な気持ちを抑えた。
彼が直接あたしには言ってこなかったんだもの。
「婚約者が俺にはいるんだ。」って。
あたしは、彼を心底信じていたの。
だから、あの悪い噂は忘れることにしたの。
忘れることにしたのよ。

それから、あたしたちは何度か会って。

そう。
あたしたちは、隣町の豊穣祭を見る約束をしていた。
でもね・・・30分待っても、1時間待っても、とうとう彼はやってこなかったわ。
彼が約束を破ったことがなかったので、どうして?と不信に思ったけれど。
でも、来ないんだもの。
しょうがないわ。と、残念に思って。
ため息をひとつ吐いて、
そろそろ帰ろうとしたときだった。
するとね・・・
向こうから見知った人がやってきたの。

よく見ると、それはゼルだった。
ガウリイではなかったわ。
なぜ、ゼルがここに?
あたしは不思議に感じた。

やって来たゼルは哀れむような目であたしのことを見つめ、そして、目線を下にして言ったわ。
「リナ。残念だが、お前の待っている相手はここには来れないんだ。」

・・・。

一瞬、なぜゼルがあたしにそんなことを言うのか理解できなかった。

でも、次には叫んでいたわ。

なぜ!?
なぜなの!?
あたしはゼルに詰め寄ったわ。
もちろんよ。

その時に、あたしの忘れ去ろうと思ったあの黒い思いが蘇ってきて、胸騒ぎがした。
ガウリイの屋敷の窓から一瞬だけ見えた長い黒髪の綺麗な女性。
まさか・・・そうだというの!?

「リナ。お前の彼氏のガウリイには婚約者がいるんだ。」
「・・・うそよ!だって・・・だって、ガウリイは結婚するのはお前だって言ったもの!」
あたしは涙声になっていた。
「嘘じゃない!ガウリイには昔から親が決めた婚約者がいるんだ。
 リナ。嘘じゃないだよ!わかってくれ!」
「だったら、どうして本当のことを彼自身からあたしに伝えてくれなかったの!?
 ここに彼が来て、あたしに本当のことを話してくれてもいいじゃない!?
 あたしには真実を聞く権利があるわ!!」
泣きじゃくるあたしをゼルはその胸で抱きとめ、言った。
「あいつは本当に来ることができないんだ!!!リナ!!」
そして、ゼルはあたしの両肩を持ち、あたしの目を見て叫んだ。
「よく聞いてくれ。
 お前たちのデートはその婚約者に見られていたんだよ!!
 あいつは婚約者に呼び出されたんだ。
 お話したいことがある。って言われて。
 そして、婚約者の家で、お茶でも飲みましょう?と言って、席に座らされたときだった。
 彼女はあいつの横に座ろうと見せかけたときに。
 その瞬間に、あいつの顔に硫酸を浴びせたんだ!!」
「え・・・!!」
あたしはその瞬間息を飲んだ。
「あいつは顔に大やけどを負い、今は病院で治療を受けている!
 明日。俺と一緒に見舞いに行くぞ。あいつがお前を呼んでいる。」
そう言って、ゼルは涙を一筋流した。
あたしの頭は真っ白になり。
彼の左手を持ちながら、へなへなとその場に座り込んでしまった。
「おい!大丈夫か!?リナ!!」

ゼルに連れられて自分の家に帰ったときに、アメリアに抱きしめられたわ。
それはそれは哀れむように優しく。
アメリアもその事実をゼルから知って知っているようだった。
アメリアはその晩あたしと共にベッドで寝たの。
泣くあたしの隣で静かに、目を閉じていたわ。
そして、しばらくして彼女は小さく寝息をたてて、夢の中へ行ってしまった。
でもね、アメリアのぬくもりもその時のあたしには感じられないほど、心は冷え切っていた。

その晩、あたしの胸の中には色々な思いが交錯した。

結婚するのはあたしだと話していたのに、なぜ婚約者がいたのか?
なぜ、そのことをあたしに話してくれなかったのか?
婚約していた相手のこと。
その婚約者は、昔から決められていた相手だという事実。
そして、硫酸を顔にかけるほどの婚約者の気持ちとは?

そっとベッドから抜け出して、グラスに水を注いで一口含んでみたが・・・
のどはからからだのに、全く水すら入っていかない状態だった。
胸が痛かった。