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それは永遠に秘密です。〈それはあなたの忘れ物。UP!〉

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その日はとても家に帰る気にはなれなかった。

あたしは、ふらふらと抜け殻のようになり、そのまま夜の街へ出かけた。
街の喧騒にあたしは消え去りたかった。
家に帰ると涙が止まらなくなることがわかっていたから。

夜の喧騒はあたしの悲しみをかき消してくれる。

あたしは普段入らないのに一人酒場に入ったわ。
人々の狂乱を聞きながら、あたしはカウンターで、それほど強くもないのにアルコール度数が高い液体を見続けながらのどの奥へと流し込んでいた。
不思議と酔えなかった。
どこか冷静なあたしがそこにはあったの。

でも、そんな時よ。
後ろの楽団が奏でる音楽が最高潮になったとき、あたしは少し顔を上げてカウンターの左を見た。
その薄暗い酒場の明かりに照らされた黒髪の男性と目が一瞬合った。
その瞳は光の加減か深い紫色の瞳で・・・あたしのことを貫いていた。

あたしは、そっと隣にいる張り付いた笑みを浮かべるゼロスの瞳を見た。
にこにこ顔の彼の顔からは、今は瞳を見ることができなかった。

そう。
その男性とは・・・
あんたのことね。

それからあんたはあたしの隣に座り、一緒にお酒を呑んだ。
あんたはそのときにあたしの素性からなにから、すべて聞かなかった。
ただあたしの隣で微笑んでいた・・・。
他愛のない話でお酒を呑み、氷が解けるのを見つめていたわ。
そんなあたしのどこがよかったのか。

夜もふけ行った頃・・・
あたしとあんたは静かに手をつないで無言であんたが滞在するあの町でも有名な宿へと歩いていった。

重厚な扉が静かに閉まる音がした。

あんたはあたしのマントを取って。
ハンガーにかけたわ。
そして、あたしの手を引いて、ベッドルームまで行った。
そして、あんたはその豪奢で大きなベッドに足を開いた状態で腰を掛けると、手を合わせ、あたしを見つめた。

「リナさん。僕の前で着飾った服はいらない。」

その涼やかな声はあたしの胸に染み入り・・・

あんたの言葉に誘導されるかのように、あたしの手は自分の服のボタンへと手をかけていた。

その深く赤い絨毯の上に、ぱさっと音を立てながらあたしの服は落ちていった。
あんたはその様子をじっとその紫の瞳で見続けていた。
そのまま、あたしはあんたの方に歩いて行き、首に手を回した。
あんたの冷たい手があたしの背中をすべるように上から下へと撫ぜ、その感覚に、くすぐったくって体が仰け反った。
そして強く抱きしめられた。
「あなたの体は暖かくて・・・やわらかい。」
そして、首筋にいくつもいくつも口付けを落とし・・・
その感触を感じながら、あたしはまつ毛を伏せた。

あの日は特別な日だった。
あたしにとって、二度と忘れられない日。
ガウリイの唇の感触を忘れない・・・

または、誰にも肌を許したことがなかったのに・・・
夫であるこの男に意図も簡単に、あたしの心の鎧は脱がされてしまった事実。

そんなあたしの様子に、夫のゼロスは握ったあたしの手を強く握り返してきて、あたしは彼を見た。
きっと、彼も覚えているだろう。
あたしたちが初めて出会った日の夜を。

彼は、くすくすと笑っている。
そして、一瞬まじめな顔になり、話した。
「あなたは・・・この歳になっても・・・
 まだわかっていないようですね。
 あなたの美しさは時に人の一生をも狂わせてしまう。」
そして、その大きな手はあたしの前髪をさらりと撫ぜた。
「本当にあなたはファム・ファタールだ。」
そして、彼の深い紫色の瞳が一瞬光った。

パチン!
リナの隣にいる夫、ゼロスは指を鳴らした。
リナが気がつくと、その老人の姿の夫は突然に出会った頃の青年の姿に戻っていた。

リナは息を飲んで、口元に両手を当てた。
「ゼロス・・・
 一体なぜ・・・その姿に!?」

その言葉に、青年は不適な笑みを浮かべた。

「あなたのことを欲しいと思っている者たちがたくさんいることをあなたは気がつかなかった・・・。
 それは男でも・・・女でも・・・。
 あなたの美しさは今でも衰えることはない。」
「ゼロス・・・!
 あんたは・・・一体誰なの!?」
しかし、リナの問いに青年は答えることはなかった。
だって、それは彼が彼女に対しての永遠の秘密。

その瞬間リナは目を閉じがっくりと彼の胸へと倒れ込んだ。
それを胸で受け止め、青年はつぶやいた。
「あなたの美しさときたら・・・
 この魔族の僕の心さえも捉えて離さないのだから。」


「おやすみなさい。僕の眠り姫・・・。」

そして、そっと、白銀の髪のリナの頭にキスを落とした。