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だって、そうでしょう?

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「俺さ、帝人くんのことは結構気に入っているんだよね」
「はあ…、ありがとうございます」
「だから、お気に入りの帝人くんが大嫌いなシズちゃんのケーキを作るってのが、もう気に入らないわけ。タダで教えろって言うからには、それなりのメリットがないとね」
「メリット、ですか?」
「そう」
適当に言いくるめて追い出せば、諦めてセルティのところにでも転がり込むだろうか。半ばそう予想しつつも、敢えてここに来た帝人の目的を聞いてみたいと思ってもいた。教えてくれと言ってすんなり応じるはずがないことなど、わかっていてなおここに来たのだろうから。
どんな答えを用意してくれるのかと意地悪く考えていると、帝人はよくわからない、と言いたげな顔で不思議そうに首を傾げた。
「静雄さんが食べるんですよ?」
「……うん?」
「だから、臨也さんに教わって作ったものを、静雄さんが食べるんですよ?」
「………」
「勿論、怪しげな物を入れるつもりはありませんけど。これって、臨也さんのメリットになりませんか?」
…ちょっと待って。なに、その顔。
屈託のない笑顔は子供のようで、後ろ暗いところなどひとつも見えない。なんでもないことのように言ってのけて、―――事実それは帝人にとっては「なんでもないこと」なのだろう。臨也が関与したものを食べることに、静雄がどんな反応を示すかなんて。
「本人に言ってもいいなら、教えてもいいよ」
「別に、内緒にするつもりはありませんけど…?」
出来れば明日以降にしてくださいね、食べずに捨てられるのはちょっと切ないですし。
―――なんて殊勝な顔で殊勝な言葉を吐く子供に内心眉をひそめつつ、臨也はにこやかな顔で応じてやった。敢えて隠しはしないけれど、聞かれなかったら言うつもりもないんだろう? それって祝うというより呪ってるんじゃないのと思いもするが、そもそも食べずに捨てられるかのしれないものを作ろうという帝人の気持ちが、臨也には理解出来ない。
まあ、嫌な思いを味わうのはお互い様だ。
帝人が持ち込んだ器具と材料を前に、さてどんなケーキにしようかと臨也は初心者にも出来そうなレシピをいくつか思い浮かべた。
 
 
 
 
 
 
 
 
平穏な日常に憧れていたのは確かだが、だからといってそれだけが理由じゃない。大人しいのに大胆で、弱いくせに危なっかしくて、目が離せないと思っていたらいつの間にか手を出していたのだ。8つも年下の、まだあどけなさを残した少年に。
当然周りには怒られたが、当の本人は怒らなかった。帝人の周りに人が集まるのは、この包容力の大きさゆえではないかと思う。人外であるセルティも、誰もが恐れる静雄の力も、性格が破綻している情報屋も、帝人がその「異常性」を理由に拒絶することはない。
だから静雄は、帝人の向ける好意のその先にあるものが静雄自身なのか力なのかがわからない。わからなくても構わない、と思っている。力は常に静雄と共にあって、だから帝人が望むならそのどちらでも気にはしない。
だが時々、帝人の思考についていけなくなることもあって、その際たるものが静雄の天敵だ。臨也の非道さは誰もが認めるところで、帝人もわかっているようだが関わりを切ろうとはしない。一度それで大喧嘩になって、帝人に怪我を負わせてしまったことがある。以後、彼がひっそりノミの匂いを纏わりつかせていようとも表立ってはなにも言えなくなってしまい、不満はベッドで晴らすようになった。
それについて、帝人はなにも言わない。文句を言ったことはない。―――が。
「手作りに憧れてるって、前に言ってたでしょう? それで、ちょっと頑張ってみたんです」
誰かが誕生日を祝ってくれるなんて、もうここ何年もなかったことだ。仕事のあと上司と共にセルティの家に招かれて、見知った面々に笑顔と祝いの言葉を貰って、はにかむように頬を染めた恋人の姿があって、…そこまではよかった。大勢で騒がしくも豪華な食事をとったところまで、は。
セルティが冷蔵庫から取り出したケーキは、それはなんの変哲もないホールサイズのフルーツタルトだった。いや、それを言うなら帝人が取り出したのもよくある苺のショートケーキだ。
「ちょっと不恰好ですけど…、あの、味は大丈夫だと思うんです」
帝人はそんな風に言うが、お手製のショートケーキは初めて作ったとは思えないほどいい出来だ。店に飾られているものよりやや小さめだが、白い生クリームがふんだんに塗られ、熟れた苺が綺麗に並んでいる。プレートの字は確かにやや歪んでいるが、手作りだと思えばむしろ懸命さがうかがえるし、小さな手に貼られた絆創膏は昨日の夕方にはなかったものだ。日頃の家事の出来なさを知っている静雄にすればその頑張りが如何ほどのものかがありありとわかるだけに、非常に嬉しい。
「静雄さん?」
「ああ、……………いや。作んの大変だっただろ?」
「身の程知らずかなぁとは、途中で何度か思いました」
―――嬉しいのだが、なぜか素直に喜べない。なんというか、酷く気持ちが悪い感じがするのだ。なにかが引っかかる、そんな感じが。
セルティがナイフを持ってきて、帝人がそれを不器用に切り分けて、ケーキの乗せられた皿を受け取ってもなおその違和感は消えなかった。むしろ一度受け取ってしまったことで、ぞわぞわと背筋を這い登るような不快感が増していく。
言うなればそれは、皮膚の上をナメクジが這うような感覚だろうか。じとりと纏わりついて、本体がいなくなった後もその軌跡が筋のように残って肌が引きつる、そんな感覚。
一方帝人は、睨むように皿を見つめたまま動かない静雄に不思議そうに首を傾げている。
「……これ、1人で作ったのか?」
「え?」
「お前んち、オーブンとかねぇだろ。それともここで作ったのか?」
なぜそんなことを聞いたのか自分でもわからなかったが、言葉にした途端「ああ、これか」と思った。食べなければならない。そう思う理由。「食べたい」ではなく「ねばならない」のは食べたくないと思っているからで、出来ることなら今すぐこの皿を放り出してしまいと思うのに、その理由がわからない。
「教わりながら作ったんですけど…、でも作ったのは僕1人ですよ?」
「誰に」
「誰って、……」
周囲から見れば、静雄の態度は不可解にしか見えないだろう。それはそうだ。静雄自身、なぜこんなにこのケーキを不快に思うのかがわからないのだから。
心配そうに見つめる面々に、けれど静雄は帝人から目をそらさない。困ったように眉根を寄せ、その声が小さく「臨也さんに」と呟いて、一瞬その場の空気が凍った。
 
 
 
 
作品名:だって、そうでしょう? 作家名:坊。