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彼氏の言い分、振り回され王選手権

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「フライパンやったら、まだええやないか」
柔造が言う。
「蝮は蛇を召喚して、こっちに襲いかからせてくるんやぞ」
蛇は蝮の使い魔である。
蝮は蛇が大好きで、蛇も蝮が大好きだ。
蛇の攻撃力はすごい。
襲いかかってこられたら、上二級仏教系祓魔師の柔造であっても簡単に退けることはできない。
ふと。
ベルゼブブが視線を斜め下に落とし、フッと笑った。
「フライパンや蛇は、マシだと思いますけどねえ」
笑ってはいるが、その眼は暗い。
「さくまさんの場合、グリモアを持って近づいてくるんですよ」
グリモアは悪魔にとっては最強の凶器にもなる。
その凶器を持って佐隈は無表情でじりじりと詰め寄ってくるのだ。
やめてください、反則です。そう訴えながら、ベルゼブブは後退するのだが、最終的には、ギャーと叫ぶことになる。
「一度、私は木っ端微塵にされたことがあります。さすがに、あのときは、完全に再生するまでに時間がかかりました」
彼氏を木っ端微塵にする彼女……。
他の四人はぼうぜんとする。
しかし、これではベルゼブブ優一の圧勝だ。
うらやましくはないが、このまま終わるのは、なんだか悔しいようにも感じる。
柔造が口を開く。
「振り回されるっていうのとは、ちょっと違うかもしれへんが、蝮が天然で戸惑うことがあるわ」
蝮はしっかり者だが、天然でもあるのだ。
「クリスマスのまえに、蝮とふたりでクリスマスプレゼントを買いに行ったんやが、廉造のプレゼントをどうするかってときに、廉造が喜びそうなもんはなんやって考えたんや。俺は、内心、エロ本やろなって思ったけど、さすがに、それは言われへんし、蝮と一緒にいるときには買われへん」
末の弟の廉蔵は小学校の頃のあだ名がエロ魔神というドスケベである。
「そんとき、廉造の喜びそうなもんを一緒に考えとった蝮が、ええ考えが浮かんだって感じに、顔、パッと輝かせて、言うたんや」
柔造は一瞬の間を置いてから、続ける。
「参考書をプレゼントしたらどうや、って」
「志摩君は百パーセント喜ばないでしょうね」
即座に雪男が断言した。同級生にして生徒でもある廉蔵について、よく把握している。
柔造は深くうなずいた。
「それから、蝮は雨が好きなんやけど、雨の日ィに蝮の家に行ったら、縁側で、蝮が雨を眺めとった。そして、その隣には、とぐろ巻いてる蛇がおって、蝮と同じように雨を眺めとったんや……」
なかなかシュールな光景である。
けれども。
「蛇と一緒に雨を眺める。いいじゃないですか」
なにが問題なのかわからないといった様子で、アマイモンが言う。
ちなみに蛇は地の王アマイモンの眷属だ。
「ボクは、ボクのペットのベヒモスと、しえみと、しえみの使い魔の緑男と一緒に、出かけたりします」
しえみは自分の使い魔である緑男をニーちゃんと呼んで可愛がっている。
その緑男も地の王アマイモンの眷属である。
「ボクは左手にはベヒモスをつないだリードを持ち、もう片方の手でしえみと手をつなぎ、しえみはボクと手をつないでいないほうの手で巨大化した緑男と手をつなぎ、ピクニックするんです」
わあ、メルヘン☆
アマイモンの言った光景を想像した他の四人は、石化してしまったように動かなくなった。
「ただ、ひとつ、困ったことがあります」
他の四人の様子を気にも留めずに、アマイモンが話を続ける。
「しえみがお弁当を作ってきてくれるのですが、その味が独創的なんです。それに、食べているとき、パクパクむしゃむしゃといった感じではなく、ガリガリっていう感じなんですよね」
「ああ」
石化が解けた雪男が同意する。
「そうですね。僕もしえみさんが作った物をいただいたことがありますが、たしかに、ユニークな味と言いますか……」
雪男は言葉を濁した。
その様子から、他の三人はしえみの手料理がどんなものなのかを察した。