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諸星JIN(旧:mo6)
諸星JIN(旧:mo6)
novelistID. 7971
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花と桃と紺碧

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「…もし。…伏犠様、おいででございましょうか?」
 暗雲は晴れ、そこそこに晴れた陽が庵の周囲に降り注ぐようになって暫くの後、伏犠の庵に静かながら通る声が響く。
 庵の戸など開け放しているも同然。用があるものはさっさと庭の方に回るのが定石となっているこの庵でそうした声をかけてくる者は稀であり。
「…かぐやか?」
 今日も今日とて床に寝そべって花を眺めながら酒を傾けていた伏犠は身を起こして戸口へと向かう。
 案の定戸口の向こうにはかぐやが立ち尽くしており、伏犠の姿を見るなり深々と頭を下げる。
「おお、かぐや。どうした?」
「おやすみのところを誠に申し訳ございません。…その、伏犠様へお客人が…」
「客?…珍しいのう。何ぞ厄介ごとか?」
「いえ…そういった訳では…」
 普段であればまっすぐに伏犠を見て話をするかぐやが、どこか困ったような、落ち着かない眼差しで伏犠を見上げている。
「…?どうかしたのか?…ああ、そういえば客人とやらは…」
「俺ですよ。伏犠さん」
 背後からかけられた声に、伏犠の動きが固まった後、勢いを付けて背後を振り向く。
 振り向いた先、戸口の脇の死角になる位置に寄りかかって片手を上げているのは、忘れようもない程に焦がれた煌きの魂の持ち主。
 余程驚いた顔をしていたのだろう。
 左近は満足気にくつくつと笑い、寄りかかっていた壁から離れて伏犠へと歩み寄る。
 驚きのあまりにかぐやを振り返れば、かぐやは申し訳なさげに伏し目がちになり。
「…ああ、かぐやさんは責めないでやってください。俺が伏犠さんの驚いた顔が見たいって言ったんで」
「いえ。私も、その…伏犠様が少しでもお元気になるのであればと」
「気にしないでくださいかぐやさん。…っていうか、思ったより元気そうじゃないですか。かぐやさんがあまりに心配してたんで、こっちまで心配してたんですよ?」
「かぐや」
「はい」
「すまんな。案内、ご苦労だった。…ついでですまんが、女カに使いを頼まれてくれんかのう?」
「はい。何と?」
「そうじゃな。久しい友が訪ねてきた故、暫し顔を見せんかもしれんが心配するなと」
「承知いたしました」
「ああ、道はわしが開こう。すまんが急ぎで頼む」
「…?はい。承知いたしました。急ぎ伝えてまいります」
 言うなり、かぐやの体が光に包まれる。
 眩い光が集まったと思った矢先に光が弾け、視界が戻ればそこには誰も居らず。
「…便利ですねえ。けどわざわざ追い返さなくても…」
 興味深そうに見ていた左近は、皆まで言い終わる前に伏犠に引き寄せられ抱き竦められる。
「……」
「………」
「…えーと、伏犠さん?」
 暫くそのまま無言の時が流れたが、耐え切れずに左近が口火を切る。
「なんじゃ?」
「何か、言いたいことは?」
「そうじゃな…とりあえず、お主がこれほどの馬鹿だとは思っとらんかったわ」
「はは…正直、俺も思ってませんでしたよ」
「記憶は消したはずじゃが?」
「俺にもわかりませんよ。けどある日いきなり思い出しましてね。…色々思い出したら腹がたってきまして」
「…あーまあ、あの頃のことは」
「あんたが」
「…?」
「俺に一言もなかったことが、です」
 あの世界で出会い、共に戦場を駆け、時に褥も共にして。
 誰よりも近くにいたと感じていたあの感覚は、自分一人の錯覚だったのか。
 何故あの時に別れの言葉の一つもくれなかったのかと。
「あんまり悔しくなったんで、伏犠さんの面ァ見にきました」
「…お主、それだけの理由で?」
「それだけの理由ですよ?」
「本当に…馬鹿じゃのう」
「…わかってますよ」
「…あの時は、一瞬でもお主に心を向ければ、そのまま連れ去ってしまうと思うた」
「それでも良かったんですけどね」
 思いがけない言葉を返されて、伏犠は思わず左近の顔をまじまじと見る。
「…物騒なことを言いおるのう。何の策かは知らんが、あまり迂闊なことを言うとどうなっても知らんぞ?」
「ははっ。ここに来た時点でもうどうしようもなくなってるでしょうに」
 言いながら、左近は伏犠の頬へと掌を添え、自ずからその唇へと自分のそれを触れさせる。
「この後に及んで焦れったいお人だ。…察してくださいよ」
 あんたなら、朝飯前でしょ?
 片目を眇める左近に伏犠は呆気に取られた後、これは敵わん、と笑ってその顎へと指を添えて深く唇を重ね合わせることにした。

作品名:花と桃と紺碧 作家名:諸星JIN(旧:mo6)