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堕落者18

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「ねえ、いっしょにあそぼう」
 朝の挨拶が終わったので、若葉のさくらんぼ組にいるむーちゃんの元に行こうと、跡部と二人で教室を出て行こうとした直後だった。声に振り向くと、三人の女の子が立っている。
「いっしょにあそばない?」
 三人が目を向けているのは跡部だ。跡部と出会った初めは予測していたが、今までになかった出来事だ。この時、私には跡部の歩むべき道が見えた気がした。
「どうしようか」
 跡部は私へこっそりと聞いた。彼が即答出来ないところをみると、かなり困っているようだ。未来の跡部の姿を思い描きながら、私は言い放つ。
「跡部、一緒に遊んであげたら」
 私は一人、教室を出て行こうとする。跡部が肩を掴む。
「君は?」
「だって、むーちゃんがいるじゃない」
「だったら、僕も行くよ」
「跡部と遊びたいんだよね?」
 三人にきいた。彼女達は揃って頷く。
「跡部。私達とはいつでも遊べるんだから、この子達と遊んでみたら?」
 そう言うのなら、と跡部は、渋々女の子達に付いて行った。私は、楽しくなかったら戻っておいで、と付け足して言い、その日、一人むーちゃんの元へ向かった。
 それからだった。跡部は段々他の子と遊ぶようになり、日に日に連れ立つ女の子達が増えていく。自由遊び毎に、女の子達がりんご組へ訪れるようにもなれば、伝説の始まりを垣間見た心地になる。大勢の女の子達に囲まれる跡部を見れば、自分の想像力も大したものだと、ひたすら感心する。私はむーちゃんと二人きりで遊ぶ事が多くなった。
「君も来ないかい」
「何処に」
「今度から、君もいっしょにあそぼう」
 私と跡部が会うのは教室遊びのみとなる。むーちゃんは行き帰りには必ず跡部に会っている。
「むーちゃんはどうするの」
「かばじはいつでも会えるし、遊べるさ」
 どうとくの時間。教諭は子供達へ話を読み聞かせていた。手書きの紙芝居を眺めながら、私はそれを微笑ましく思っていたが、跡部は前にその絵を下手糞だと罵っていたのを思い出す。
「私はね、跡部と違うの。むーちゃんとはここでしか会えないの」
「じゃあ、かばじも一緒に遊べばいい」
 もし私達が加わったところで、跡部が女の子達の相手をしている間、どうしていろと言うのだ。
「私は行かないよ。なんなら、むーちゃんだけ誘えば?」
「それじゃあ、君はだれとあそぶんだい」
「むーちゃんがいないなら、一人で遊ぶしかないんじゃない」
「みんなであそぼうじゃないか。みんないっしょで」
「みんないっしょねえ」
 そう言ってくれるのは嬉しい。しかし、私は跡部たちと仲良くなれたとはいえ、昔の十八年間に、自分の人付き合いの不得手さを自覚している。ましてや、付き合いの浅い他人、それも幼児相手に、辛抱強く会話を続けたり、遊び相手を引き受けたりする自信は無い。
「あちら立てればこちらが立たぬ」
「なんだいそれ」
「ことわざ」
 跡部には仲良くしてもらっている恩があるが、跡部と満足に遊べないのが目に見えていて、「みんな」の一員になるつもりは無い。跡部と遊べないこと事態には不満は無く、跡部が楽しければそれで良いとまで思っているが、跡部が楽しめているのなら私がいなくても良いとも思っている。
 跡部は私に遠慮をしたのか、むーちゃんは変わらず私と遊んでいた。
「むーちゃんは跡部と遊ばないの」
「……あとべさんとは…いえであそんでます」
 跡部が抜けてしまった今、ごっこ遊びは少なくなり、絵本を読んだり、折り紙をしたり絵を描くぐらいで、外に出て遊ぶ事が無い。跡部と遊んでいた時から外に出る事は少なかったけれど、もうむーちゃんは、走り回って遊んで体を丈夫にするべき時期だ。幼稚舎でたいいくはあるけれど、教室遊びは一時間半程度、私がわがまま言ってばかりではいけない。
 しかし、二人で出来る事は限られている。
「今日は幼稚舎の中探検しよう」
 彼の頭を一撫でしてから、私達は手を繋いで歩き出す。目的は決まっていた。私の歩みに迷いは無いし、私の目は一人ひとりの子供達の顔、その表情まではっきり見える。若葉組の教室を一つ一つ見ていけば、自ずから見つけ出せるだろう。
 いた。私のイメージ通りのまま、彼はいた。皆が相手を見つけて遊び合っている中、彼は一人机に向かっていた。一人きりという状況までがイメージ通りだったので、申し訳なく思いながら近づいていく。
 手元を除くと、何と紙の上に漢字が並んでいた。
「こんにちは」
 彼は、もう一文字加え終えてから、こちらを振り向く。綺麗に先の揃えられた茶色い髪がさらりと音を立てる。私達を眺めると、気が済んだのかまた机に向かう。
「あなたのお名前なあに」
 先ほどより一回り大きな声で言う。しかし、彼は口を閉ざしたまま、ひたすら手を動かしている。考えあぐねていると、彼の鉛筆の先に気付く。
「ひよしわかし」
 そこには力強く漢字で書かれた、彼の名前があった。私が呟くと、彼は目を丸くしてこちらを見る。
「よめるの」日吉若はそう言ったかと思うと、ばつの悪そうな顔をして言い直した。「よめるんですか」
「うん、だって、あなたより年上だよ」
 私は勝手に紙を取り上げる。
「わあ、すごいね、こんなに書いてて飽きない?」
「かえして、ください」
 紙には、それぞれ漢字が縦に並べて、一文字十回ずつ書かれていた。書かれた字を見て、以前よく目に触れていたような印象を受けるので、これは、教室遊びで書かされた字を書いてるんだろう。
 意地悪するつもりは無いので、紙を再び机に置いて返す。
「もう、『聞』くなんて文字知ってるの?」
 字列の一つにあったそれを指差して、私は尋ねる。しかし、彼は黙った。むーちゃんに話を振ってみるが、首を横に振る。私は別に、若葉組事情を知りたいわけではないので、そんな事よりも、少し気になった事を言ってみる。
「だけどこれ、字が少し違うよ」
 机には、誰かが出しっぱなしにしていた鉛筆があったので、勝手に使わせてもらう事にする。紙の空いたスペースに、私は自分の「聞」の文字を書く。
「この文字の耳は、この斜めのところ、出ないんだよ」
 すでに十個も書かれているその字の、門構えの下に書かれた耳は、耳の形のままだ。きっとこの子は、どこかで見かけたこの字を、おぼろげな記憶で自ら書いてみたんだろう。
「うそだ」
「本当だよ。なんなら、先生に聞いてみる?」
 彼の返事を聞かないで、むーちゃんに目配せをした後、彼の腕と紙を持って、教諭のところへ行く。彼は引きずられながらも、大人しく付いてきた。むーちゃんも私達の後ろを付いてくる。
 教諭に紙を差し出して、事の成り行きを簡潔に述べると、教諭は私の字が正しいと言って、褒めて私の頭を撫でた。用が済んだので、礼一つ程度に、再び元の場所に戻る。
 しゃべる事も見あたらなったので、とうとう、彼に声を掛けた目的を告げた。
「ねえね、私達と遊ばない?」
「あそばない」
「また、勉強するの?」
 彼は、私の手から紙を奪い返し、机に放置していた鉛筆を再び手に取る。
「じゃあ、一緒に勉強するか」
 むーちゃん相手に、そうするかと尋ねてみれば、彼は頷くのみだった。
「私さっきみたく役立つよ。漢字なんか、あなたより知ってるもん」
「うそ」
作品名:堕落者18 作家名:直美