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みんな目金を好きになる

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 音無と別れた夏未、木野、目金はサークル棟エリアから野球場エリア、テニスコートエリアを回って、裏口から本校舎に入る。途中、目金を見つけた生徒たちにキャーキャー言われるが、無視して突っ切った。
「参ったわね」
 顔をしかめる夏未。グラウンドにいた生徒は、本校舎にも入ってきてしまっている。少しでも立ち止まれば生徒は目金を見つけて騒ぎ、携帯をかざしてくるので鬱陶しい事この上ない。
「…………………………」
 夏未は軽く息を吐き、振り返って木野と目金に向き直る。
「校舎に入った生徒は私が誘導する。後は木野さん、目金くん、任せたわ」
「夏未さん。その役目は私が」
 胸に手をあて、名乗りを上げる木野に夏未は首を振った。
「いいえ。人が入らないように玄関を封鎖しようと思うの。これは私にしか出来ないわ。それに木野さん」
 名を呼ぶ夏未の声色に、木野は微かに肩を揺らす。
「貴方、昨日のゼリーの事をまだ後悔しているのね。だから部室でサッカー部の皆を閉じ込める役目も率先したし、今も進んで名乗りを上げた」
「だって私が作らなければ、もっと多くの協力を得られたと思うの」
「貴方のゼリー、私も食べてみたかったから無理も無いわ」
「ぼ、僕もです、僕も」
 二人の間で小さく挙手をする目金。
「さあ、行きなさい」
「はい」
 木野と目金は声を揃えて返事をした。


 放送室は三階。二人は階段を駆け上がる。
「はっ……は………はっ……」
 上りおわった所で木野が不意に足を止め、壁に手をついた。
「木野さん」
 目金は戻って小走りで駆け寄る。
「疲れてしまいましたか」
「……はぁ……目金くん……」
 木野の手が目金の手首を掴んだ。
「ねえ、どうして眼鏡をはずしてしまうの」
「えっ」
 はじかれたように木野の顔を見上げる目金。走って前髪がやや乱れ、汗を滲ませる彼女の瞳は虚ろであった。
「いけないわ。貴方の眼鏡はとても素敵なんだから……。あれ……私は……一体何を……」
 もう片方の手で額を押さえ、ずり落ちるように階段を椅子代わりにして座り込む。目金を捉えている手もがくんと下がるが、離そうとはしない。
「木野さん、しっかりしてください」
「どうして……私が……。ああ、たぶん家庭科室で手を何度も洗ったからね。目金くん、私はもう駄目よ、先に行って」
 掴んだ手を離そうとするが、別の何かに操られたように動かない。もう一方の手で強引にこじ開けて解放させた。
「行きましょう。貴方はまだ正気が残っているじゃないですか」
「無理よ。早く行って、皆眼鏡を好きになってしまう前に」
「頑張ってください。僕も、頑張りますからっ」
 今度は目金が木野の手を掴み、起き上がらせる。
「うん、わかった」
 小さく頷き、身を起こす。二人は再び走り出し、放送室に入った。
 放送室は無人で安堵したのも束の間、機器の操作方法がわからない。辺りを見回し、新人用に上級生が書いたと思われるメモを見つけた。メモの文面を辿って操作しながら、目金はマイクを手に取る。


『あー……皆さん、聞こえますか』
 話し始めはスピーカーがけたたましい音を立てるが、初めだけで後は安定した。
『僕はサッカー部二年、目金欠流といいます』
 相手が目金だと知ると、外から黄色い悲鳴が響いた。どうやらちゃんと聞こえているようだ。
『今、雷門では僕の眼鏡のスタイルがとても流行っているようですね。喜ぶべきなのでしょうが、僕は残念に思います』
 なんで?どうして?聞いている生徒たちは疑問にざわめく。
『眼鏡はファッションの一部に取り上げられる場合もありますが、僕はただ目が悪いだけでつけています。僕は正直、眼鏡をカッコ悪いと思っています』
「目金くん、そんな事無いよ……」
 入り口近くにいた木野がふらふらと歩み寄ってくる。大変危険な香りがした。悪寒に背筋が冷えるが、目金は逃げずに続ける。
『僕は一大決心をしました。どうか皆に聞いて欲しい。僕は……僕は……今日からコンタクトに替える!!』
 なんだって!!!惚れ薬に頭をやられている雷門生徒に、とてつもない衝撃が走る。横で聞いている木野も例外ではない。
『今!ここで!僕は!眼鏡を捨てる!!』
 やめて!なんて事を!いやああ!!拒否と悲鳴の叫びが雷門を包み込む。
「眼鏡を……捨てる……?コンタクトなんて邪道よっ」
 木野は目金の肩を掴み、揺らしだす。その目は完全に眼鏡に取り付かれていた。
「眼鏡じゃない目金くんなんて、目金くんじゃない!コンタクトの目金くんなんて、見たくないよ!嫌いになりそうだよ!」
『うぐ』
 木野の手が目金の首を捉えた。言い争う声がスピーカーを通して雷門全体に伝わる。声を聞く人々は、目金の眼鏡を愛したい気持ちと、戦っているらしい同士と同じ思いが胸を軋ませ、祈るように手を組んだ。
『眼鏡じゃない僕を、皆は興味を失い、嫌いになる人もいるでしょう。しかし、嫌いで結構っ!』
 木野の十本の指が目金の首の肉にめり込み、気道を締め付けてくる。息が詰まり、苦しい。咳き込みたいのに、それさえも喉元でつっかえる。目の前がぼやけ、意識が飛びそうになるが目金に諦める意思はない。マイクを握り直し、力の限り訴える。
『コンタクトでも僕は目金だ!僕は僕です!』
 眼鏡を外し、思い切り投げ捨てた。
「眼鏡がっ!」
 木野の手が離れ、眼鏡を受け止めようと飛ぶ。目金は崩れ落ちるように倒れ、マイクも手から離れる。
 ごろん、と落ちる音がマイクを通して木霊した。木野の“なんて事を”という呟きを拾い、生徒たちは目金が眼鏡を捨てたのだと悟った。
「目金くん。眼鏡をやめちゃったんだ……」
 グラウンドの中央で、誰かが呟く。昨日買ったばかりの眼鏡を外し、足元に落とした。その生徒を中心に、輪が広がるように眼鏡を外していく。目が覚めたとは言えないが、雷門生徒の眼鏡への執着が解けていった。