past 後編
第八章
「大佐、ずっと好きだった。」
「・・・・・っ・・」
「俺はずっと大佐に守られてきた。
だから、これからは俺があんたを守ろうって思った。」
「・・・・なに・・をっ」
「それが今の俺の夢なんだ。」
「・・・・・・なっ・・・」
「・・やっと言えた・・・。聞いてくれてありがとな。」
「・・・・・・・っ!!!!・・」
ありがとうと言って笑うエドワードの顔は誰から見ても美しかった。
本当に綺麗に笑っていた。
「大好きだよ。」
・・・・・・・は・・がね・・・・の?
ドドドドドドドーン!!!!!
突如轟音が鳴り響き、エドワード達が立っていた場所が崩れた。
立っていた場所だけではない、壁や天井、この建物全体が崩れた。
天井からの瓦礫がエドワード達を襲う。
足元は崩れ去り、体が宙に浮いた。
土煙があがり、建物の建っていた場所が茶色になる。
その土煙が晴れていき、どうなったかと目を凝らすと、そこにあったはずの建物はただの瓦礫に変わっていた。
「アッハハハハハハハハ!!!!かかりおった。生意気な若造め、」
その瓦礫の傍に高笑いをする軍人がいた。
ロイが連れてきていた部隊の人達はそれを呆然と見ていた。
もし、ロイが中は良いから外を固めろと命令していなかったら。
自分たちもこの瓦礫の下に・・・・・
近くの建物で待機していたフュリーとブレダが駆け寄ってきた。
そして高笑いをしている将軍にブレダが掴みかかった。
「若造とは一体誰のことっすか!!!!!!」
「ハンッ決まっているだろう。エドワード・エルリックだ。」
「・・・・っ・・・中には一般人も!!!」
「さっさとエドワード・エルリックの死体を探せ。」
「・・・・こんのっ・・!!!!!!」
今にも殴りかかろうというブレダをフュリーが必死に抑えて止めた。
そんな二人を見て、またもクスクスと笑う。
「・・・情報は慎重にな。」
アハハハハハハハッ――――!?
将軍の勝ち誇ったような笑いが止まった。
そしてガタガタという音と共に、アームストロングが姿を現した。
「なにっ!!!??」
「「アームストロング少佐!!!!」」
「・・・大事ない。」
アームストロングの後ろからリザ、ハボック、グレイシアが姿を見せた。
それにホッと息を吐き、ブレダとフュリーが近づいた。
「無事で良かったです。」
「えぇ、ギリギリの所でね。」
「エドの錬金術で守られた。」
「エド・・・・エドワード・エルリック?」
「あぁ。」
「エドワード君は・・・大佐は?」
「「・・・・。」」
「探しなさいっっ!!!!!」
リザの一声で今やっと瓦礫から出てきたアームストロングもグレイシアも、
まだ体が不自由なハボックも、わけの分からないブレダとフュリーも探し始めた。
完全に蚊帳の外になってしまった将軍は苦虫を噛み潰したような顔をして見つめていた。
このまま、エドワードも生きてロイも生きていたとなると己の身が危ないからだ。
だが、どうにか死んでいてくれという願いも虚しく、ハボックの声が響き渡った。
「居たぞーーーーーーーー!!!!!!!」
全員がそこへ駆け寄り、邪魔な瓦礫をどかしていく。
瓦礫の隙間からわずかに光るエドワードの髪の毛。
そして徐々に見えてきた二人の姿。
瓦礫を退かしていた面々は誰も声が出なかった。
苦痛に顔を歪めてロイが目を覚ます。
そして目の前にあるエドワードの顔を見た。
エドワードは意識を失ってはいなかった。
「・・・・たいさ。」
「・・・・・はが・・ねの・・」
「・・・思い出したんだ。」
「すまなかったっ・・」
「・・遅いよ。」
「本当にすまない。」
「もう良いって。」
「・・・・私・・は・・―――っ!!!???
そこでロイは初めて気付く。
自分を守るように覆いかぶさったエドワード。
そしてさきほどからじわじわと濡れていく己の軍服。
それは妙に温かいものだった。
「鋼のっ・・・!!!!!」
「大佐・・・・大好き。」
「・・・しゃべるなっ・・・!!!!!」
「大佐・・・・」
「お願いだ・・・しゃべらないでくれっ・・・っ」
ロイの頬にエドワードの涙が降ってくる。
それがロイ自身の涙と合わさり頬を伝い流れていく。
エドワードの背中には先ほどまで天井だったものが突き刺さっていた。
腹部を貫通したそれがロイには届かないように片手で押さえられていた。
だが、その手も今はもう感覚が無くなってしまったのかロイの体にだらりとその身を預けていた。
あの瞬間、咄嗟にリザ達を助けるために両手を合わした。
だが、反対側に居たロイまで一緒に助ける時間がなく。
エドワードは身をたてにした。
「大佐・・っ・・」
「・・・・っ・・・中尉、誰か!!!鋼のを・・・・エドワードをっっ!!」
今までに聞いたことがないほど情けない声だった。
とてもロイの声とは思えない・・そんな声だった。
その声が周りの人間に届かなかったわけではない。
だが、誰から見てもエドワードは・・・
「・・・・・誰か・・・っ・・・エドワード・・っ」
「たい・さ・・・・だいじょ・・ぶ」
支えていた腕がガクリと折れ、ロイの上に倒れこむ。
「エドワードッッ・・・!!」
「お・・れ、大佐守れた・・・・良かった。」
「・・・・っ・・・ばかも・・・・っ」
「・・・・お・・れ・・・・・・幸せだよ。」
「分かったっ・・だからもうしゃべらないでくれっっ!!!!」
「たい・・さ・・・だい・・す・・き・・・。」
「・・・・・・っ・・・
「ありが―――――――
最後は声になっていなかった。
ただ、エドワードから何も音を感じなくなった。
トクントクントクンという音が、
止まってしまった。
「エド・・・ワー・・・ド?」
「・・・エドワード・・・・」
「・・・何故黙る・・何故・・・黙るなっっ!!!!!!!!!!!」
ロイの胸元にあったエドワードの腕がスルリと落ちていく。
その体から温もりが消えていく。
「・・あっ・・あぁぁ・・・うわぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ロイの悲痛な叫びが響いた。
その瞬間――
歪んだ歴史が元に戻った――
「・・・・・・・エド・・ワード・・・」
ロイはエドワードを抱きしめたまま、その場を動こうとしなかった。
リザはどう声をかけていいのか分からなかった。
リザだけでなく、全員が声のかけ方を思い出せないで居た。
その時だった。
兄さん―――?