past 後編
最終章
幼い声が響き渡り、
振り返るとそこにはアルフォンスが立っていた。
その場に居る全員が分かった。
鎧姿ではないけれど、アルフォンスだと。
「・・・・・・・・兄さん・・?」
アルフォンスの目に映る光景はとても信じられないもの。
血だらけで瓦礫の上に横たわるロイ。
そしてロイが抱きしめている金色の髪をした少年。
その体には石の塊のようなものが突き刺さり、服はいつかのエドワードのコートのよう。
「・・・・兄さん・・なの?」
誰も答えられなかった。
「・・・・っ・・・・兄さんっっ!!!!!!!!」
アルフォンスはロイの元へ駆け寄った。
細くなった足で、瓦礫に何度も躓き転びながら駆け寄った。
そしてロイを睨み付けた。
「・・・兄を放してください。」
地を這うように低い声だった。
だが、ロイはその言葉には何の反応も示さなかった。
「・・・・・・・っ・・・」
アルフォンスは無理矢理にでもロイから引き剥がそうとした。
ロイの目からはとめどなく涙が溢れ続けている。
アルフォンスの目からもポロポロと涙が溢れていた。
「・・・・・はな・・し・・・・だ・さいっ・・」
「・・・・・・・。」
「・・・・なん・・で・・っ・・」
「・・・・・・・・・。」
「・・かえ・・せ・・・なんで・・っ・・・なんで・・兄さんが!!!!
なんで・・兄さんばっかりっ・・・・・・・兄さんを返せぇぇぇ!!!!!!!」
「「「「・・・・・っ・・」」」」
その叫びはその場に居たもの全員から言葉を完全に奪った。耳を塞いでしまいたかった。
皆が、ロイがエドワードを抱きしめ離さない姿に心が苦しみ、
兄を返してと叫ぶアルフォンスに心が痛み、涙を流す。
リザやアームストロング、グレイシア、ハボックはエドワードに助けられたその身を己で強く抱きしめた。
「兄さん・・・・っ・・・・・兄さぁぁぁぁんん!!!!!!」
「・・・・・・・」
「離してください・・・っ僕の兄さん・・・離せよぉぉぉ・っっ!!!!!!!」
「・・・・・・っ・・」
一瞬ロイの腕の力が緩まり、
エドワードの顔がアルフォンスの方を向く。
「・・・・・・っ!!!!!!!!
兄さ・・ん・・・・・・・・・っっ・・」
エドワードは笑っていた。
閉じられた瞳の目尻には涙の痕が残っていたが、笑っていた。
今までに見たどの笑顔よりも嬉しそうで、幸せそうで――
そんな・・・
「兄さん・・・・・幸せだったの?・・っ・・
後悔は無かった?・・・・僕は・・・兄さんを守りたかったっ・・・・・
ねぇ、兄さん・・・・兄さん・・・・
・・・へん・・じしてよぉ・・・・・・・・・っ・・!!!!!!」
兄さん・・・
このばか・・
いつも僕に内緒で・・・
大事なことばっか・・言わないで・・
帰ってくるって言ったのに・・・
嘘ばっかり・・
嘘ばっかりっっ!!!!!!!!!
文句の一つも聞いてくれたって・・・
文句の一つも言わせろっこの・・ばか・・・兄・・
アルフォンスはその場に崩れるように座り込んだ。
だが、拳に力を込める。
そして目の前の生気を失った大人に向かって呼びかける。
「・・・・・大佐・・、聞いて・・ますか・・・聞こえてますか?」
ロイの目は未だ焦点をつかめていない。
どこを見つめているか分からない目からは涙が流れ続ける。
「・・・・大佐っ・・・・馬鹿な事したら許しませんよっ・・」
「・・・・・・。」
「・・・・兄さんをこれ以上苦しめたら・・・
「・・・・・・。」
「僕はあなたを恨みます。」
ロイがゆっくりゆっくりとアルフォンスに視線を合わせようとした。
「大佐、あなたが馬鹿なことをしたときは、僕があなたを殺します。
兄さんの居る場所になんか逝かせませんっっ・・・絶対にっ!!」
「・・あ・・・るふぉ・・す?」
「その足で立って、立ち上がってくださいっ!!!!!!!!」
「・・・・・っ!!・・・・わた・・しは・・・・っ・・」
「気がつきましたか?」
「・・・・・わた・・しは・・・・・エドワードっ・・すまないっ・・」
ロイが確かにその瞳にアルフォンスの姿を映すと、
腕の中のエドワードをもう一度抱きしめた。強く強く。
そしてエドワードにも、目の前のアルフォンスにも謝罪した。
「謝るな。」
「・・・・・・・・アル・・フォ・・ンス?」
だが、その謝罪の言葉を聴いた瞬間どうしようもない怒りがこみ上げた。
そんな言葉を求めているんじゃない。
そんな言葉を聴くためにエドワードは―――
「・・・・兄さんは夢を叶えたんですよね・・」
「・・・・・・ゆ・・め?」
「兄さんの夢は皆を守ること、大佐を守ることです。」
「・・・・・・っ!!!」
「「「「「・・・・っ!!」」」」」