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不二はかじかむ手を暖めながら待っていると、待ち合わせたファミレスに白石が到着した。
「待たせたか? ってか、コートも着んと大じょう……」
震える不二の手にすっと、白石の手が伸ばされる。触れた瞬間、不二の体がビクッ、と跳ねた。
ひどい事情があったのかと察して、白石は不二を促して二人して店内に入る。早朝のファミレスは徹夜で遊んだ人たちと、朝食のために訪れた人たちで割とにぎわっていた。
白石はドリンクバーを二つ頼むと、コーヒーを二人分とってくる。会ってからまだ一度も口を開いていない不二の前にそっと置いた。

「とりあえず、身体、暖めたほうがええな。それで落ち着いたら話して」

無理に聞きだすつもりはなく、白石は静かに手を組んで待った。
不二はそっとコーヒーのカップに手を伸ばして、一口だけ飲見込むと、周りの話し声によってかき消されそうなくらい小さな声でつぶやいた。

「……幸村に、襲われた」

どんな言い方で話すか、というより、まずその話をするか、というところで迷っていた不二。この短い言葉を発するだけでも、相当な勇気を必要だった。
そして、吐き出された言葉に、白石の表情がはっきりと歪んだ。

「それは、どうゆうことや」
「……昨日、ご飯に誘われて、そのときに」

これ以上、はっきりと言葉にするのが怖い。そう言わんばかり震えている不二は、両手で小さなコーヒーカップを強く握っていた。その様子に白石は伸ばしかけた手を、戻した。
なんで、幸村クンが。
白石の率直な感想だった。
幸村がそっち側だという話は聞いていたけれど、一度も、不二に対して何らかの感情を抱いているという様子もなかった。そもそも、不二は手塚しか見えてないと気づいていたはずなのに。
不二に何か言おうと口を開くが、掛ける言葉が見つからず、すぐに口を閉じる。何度かそれを繰り返してから、白石はゆっくり息を吐いた。

「なんでまた、そんなことになったんやろ」
「知らない。……手塚に彼女いるなら付き合わないか、って。なんで、手塚のことと、僕と付き合うことが関係あるのか、」
「あー……、まぁ。とりあえず落ち着き」

白石はかばんの中からハンカチを出すと、不二に手渡す。不二の目には、涙が溢れそうになっていた。
傍から見れば、不二が手塚に対して友情以上の感情を抱いていることはわかる。けれど、本人自身がそれを自覚していないという問題はあった。不二が自覚したところで、誰も何も幸せになれないと気づいていたからこそ、誰一人としてそれを自覚させようとはしなかった。
それが、裏目に出たんかな。

「不二くんって、ほら、手塚クンとめっちゃ仲良しやったやろ。そやし、幸村クン、不二くんがずっと片想いでもしてると勘違いしたんちゃうかな」
「なんで、そんな勘違いが出てくるんだ」
「えっと……その、幸村くん、ゲイって聞くし、不二くんずっと彼女とかおらんかったやろ?」

自覚がない分、理由付けをするのがしんどくなってきた。
不二は不審そうな顔を向ける。

「そう、だとしても、なんで僕が襲われなきゃいけないの」
「……あー、たとえば、幸村クンが不二クンのこと実は好きやったとか!」

答えに窮して、明るく言い放つ白石。その言葉に不二はビクっと身体をすくめた。

「え、っと、冗談やし気にしんといてや」
「………………幸村に好きだったと言われた」
「え?」

白石は思わず固まる。何を、言っているのだろうかと。

「だからって、して良いことと悪いことと。そもそも、男同士でそんな……。幸村は僕をどうしたいの。僕は何をどうしたらいいっていうの」

思い切り吐き出した後、不二は泣きそうな声で言葉を搾り出す。

「もう、手塚と顔を合わせられない」
「不二くん……」

無自覚のまま、手塚を名前を出す不二。漏れた本心に、白石は痛みをこらえるような表情になる。その痛みは、白石のものではないにもかかわらず。
しばらくの間、お互いが言葉を発せずにいた。
店員によって周りに座っていた徹夜明けの人たちが追い返される中で、二人は空気のように放っておかれていた。
続いた沈黙を破ったのは白石だった。

「ひとまず、このことは俺らの秘密ってことで誰にも言わんわ。それは、約束する」
「……ありがとう」
「落ちついたんやったら、一旦、家帰ったほうがええんちゃう? 昨日帰ってへんみたいやし。まぁ、まだここに居たいんやったら付き合うから言うて」

選択肢をなるべく多く与えられるような言葉を慎重に選ぶ。その気遣いを察したのか、不二はいつもの笑みを作る。

「そうだね、ありがとう。ひとまず帰ることにするよ」

それでも、不二はコーヒーカップから手を離すことはなかった。


不二を駅で見送ってから、白石は自分のケータイを取り出す。アドレス帳からや行を選んで電話をかけた。
2回のコールで通話が繋がる。

『はい、幸村です』
「あー、幸村くんちょっとええ?」

いつもと変わらない幸村の声音に、緩みかけた気を引き締める。

『いいけど、こんな朝早くに何かあった?』
「うん、ちょっと不二くんに相談されて」
『……そう』

明らかに声の雰囲気が変わる。

「不二くん、相当怯えとったで」
『そうかもね。それで?』
「それで、って……。幸村くんのこと怖がってるみたいやし、不二くんに近づくん、やめたってや」
『…………』

ない返答。白石は唾を飲んでそれを待つ。

『白石に言われる筋合いはない。それに、不二のほうから連絡がくることだって有るかもしれない』

関係のない白石がここで話の間に入るのはおかしな話であっても、相談されたからには口を出さずにはいられなかった。

「自分のしたこと思い出し。許されるもんちゃうやろ」
『わかってるよ。でも、不二から来てくれる場合はいいだろう。たとえば、俺の家に忘れ物をしたとかでね』
「は?」

わかってるとはどういうことか。悪いことをしたという自覚があるということだろうか。

『用件がそれだけなら、もう切るよ』
「え、ちょ、待っ」

プツン。
通話が切れて、ツー、ツー、と電子音だけ流れてくる。仕方なく、白石も電源ボタンを押す。
これから、何もなかったらいいんやけど。
このまま大阪に戻ることを不安に思いつつ、白石は泊めてもらっていた家へと足を向けた。


作品名:hung up 作家名:すずしろ