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ベイブ・イン・ザ・ラボ

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 トラが眠りについて10分程が経つ。真剣な顔で機器に向き合うバーナビーの邪魔にならないよう、虎徹は部屋の隅にあるデスクの椅子を借りていたが、やはりトラが気になって椅子に腰かけたままバーナビーの隣ににじり寄った。虎徹は、充電時より複雑なコードで繋がれたトラを見つめる。
「なぁバニー。やっぱりトラ、どっか故障してた?」
「……いえ、今のところ異常個所はありません」
 その答えに虎徹は一先ず胸を撫で下ろすと、多重表示した画面を見つめたままのバーナビーを一瞥した。集中しているのに悪いとは思いながらも、虎徹はどうしても気になって仕方が無かった事をさり気なくを装って切り出す。
「あのさ、やっぱりトラ、ここに返さなくちゃだめか? 連れ戻されたんじゃないかって、不安そうにしてからさ」
「そうですね。テストが済んだらここで使う予定でしたけど、トラも懐いてますし、虎徹さんが気にいったのなら引きとって下さっても構いませんよ。安くします」
「……安く?」
 予想だにしなかった単語をオウム返しすると、振り向いたバーナビーがにっこり笑って告げた値段に虎徹は絶句する。軽く高級車は買える金額だ。けれど何故か諦める気にはならなくて、唸りながら虎徹は粘る。
「うーん…あ、じゃあ折半しよう、バニー。一緒に住んでるし、俺たち恋人だろ!」
「こ、こんな時だけ恋人面しないでください、卑怯ですよ!……いいですけど」
「やった」
 かなり無理矢理な案だったが、ごり押しするとバーナビーはもそりと折れてくれた。再び画面に向き直ったバーナビーの耳が赤く染まっているのに、虎徹の口元がにやける。勢いでバーナビーの腰辺りに抱きつくと、多重表示されていた画面の一つの色が突然変わって、アラームが鳴った。
「っと、わりぃ、俺なんか触った?」
「いえ、これは…」
 そっと離れて様子を窺うと、上の空の返事をしたバーナビーは画面の表示に集中してしまう。
「やっぱり、トラのAIに自我の発達と感情の発露がみられます」
「おぉ! それってかなり、すげー事なんじゃねーの?」
「……すごい事ですよ」
 テンションが上がった虎徹とは対照的に反芻するバーナビーは深刻そうな顔をしていた。普通、喜ぶとか驚くとかするものじゃないのかと虎徹が首を傾げていると、バーナビーは表示していた画面を全て閉じてしまった。
「終わったのか?」
「解析は終了です。後はシステムの調整なんですが、これは僕一人では無理なので」
 ちょっと失礼します、と断ってバーナビーはデスクにあった電話を使い、短い会話をして受話器を置いた。一人では無理、ということは誰かを呼んだのだろう。
 電話を終えてもデスク周りでがさがさと物音を立てていたバーナビーは、くるりとこちらを振り返ると虎徹を呼んだ。
「これから結構長くなるので、その間に書いてもらいたいものがあるんですが」
「な、なんだよ」
 思わず身構えると、バーナビーはニコリと笑う。経験上、あまり言い予感のしない笑い方だ。
「トラの使用感というか、使ってみての感想が知りたいんです。あと、引きとりたいと思った動機もお願いします。レポートを作成しなければならないので」
「レポートぉ?」
 こっちでお願いします、と座ったままの椅子の背もたれを押されて、虎徹は強制的に部屋の隅のデスクまで移動させられてしまった。
「打ち込むのが面倒だったら、紙に直接書いて下さい」
 そうバーナビーが言う通り、デスクの上にはパソコンとその隣には先ほど揃えたのか新しい紙束がもそりと置かれている。これ使って下さい、とペンは直接手渡された。
「感想って言われても…」
「一カ月トラと暮らして感じた事とか、なんでもいいんです」
 ふむ、と頬杖をついて思い返してみても、トラの印象は初めと変わらない。完璧な家政夫だ。けれど、時折見せる人間らしい表情や握られた手の感触は、虎徹の中の父性というか庇護欲の様な何かを確実に掻き立てた。バーナビーはトラが虎徹に懐いていると思っているようだが、それはたぶん逆で。虎徹が絆されたのだ。
「だっ! 書けねぇよ!」
 じわじわと恥ずかしさがこみ上げてきた虎徹は、頭を抱えて縮こまる。始末書の方がまだマシな様な気がしてきた。難しく考えなくていいですからとバーナビーに宥められたが、さっぱり手は動かない。
「俺、ちょっとトイレ行ってくる」
「トイレならこの部屋を出て左に曲がった先を右に進んで、左奥にあります」
「……お、おぅ」
 記憶力を試される道順をなんとか覚えると、虎徹は勢いをつけて立ち上がった。バーナビーには悪いが、休憩を兼ねて気分転換してこよう。そうしよう、と心の中だけで目論むと、虎徹さん、と鋭く呼び止められ、
「逃げないで下さい…というか、迷わないように気を付けて下さいね。ここ、結構入り組んでますから」
 そうしっかり釘を刺された上、割と真剣な顔で心配されてしまった。
「子供じゃねーんだから、迷うわけないだろ」
 分かりにくい嫌味だな、と虎徹は構わず、ひらひらと手を振って部屋を出た。