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ベイブ・イン・ザ・ラボ

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その3



「……迷った」
 バーナビーに言われて、こんな建物の中で迷うわけないだろう、と軽んじていた少し前の自分を虎徹は小突きたい。トイレから一歩出た矢先、どちらから来たのか虎徹はすっかり忘れてしまっていた。頼みの綱の携帯電話も、家を出るときにポケットに入れたはずなのにどこを探っても見当たらず、車かロビーかさっきの部屋か、落としてしまったらしい。さらにはこの建物の作りがほぼ同じようになっているため、虎徹の勘を鈍らせる。とりあえずこっちだろう、と適当に左に続く通路を歩きだした。
 そのうち、通りすがりに道を訊けばいいやとのんきに考えてしばらく歩いていたが、一向に人とすれ違わない。迷う程広いのに静かな不気味さを感じ取って、虎徹は不安になってきた。
「ラボはひきこもりが多いだけ、だよな…?」
 セキュリティレベルの低い部屋はゲストカードでも入れますよ、というバーナビーの説明を思い出して、適当な部屋を選んだ虎徹は許可証を兼ねたカードキーをとある部屋のカードリーダーに翳す。こうなったら中にいるであろう人間に訊くしかない、と腹を括った虎徹は、ロックを解除した部屋へ失礼します、と遠慮がちに足を踏み入れた。室内は、トラを診察する部屋と同じであまり広くは無かったが、所狭しと研究用のなのだろう機材が並んでいる。
「誰かいませんかー?」
 そう呼びかけてみても応答や物音は無く、運悪くこの部屋は無人だったらしい。次に行こうと見切りを付けて踵を返しかけた所で、虎徹は目の端で違和感を捉えた。
「……足?」
 もう一度見直すと、トラが使った様な簡易ベッドに被さっている布から、人間の足が突き出ていた。ここはアンドロイド研究の為のラボなのだから、生身の人間の足では無いはずだと強張る身体に言い聞かせて、虎徹は恐る恐るベッドへ近づく。そっと布をめくり上げると、現れた人物に目を見張った。
「バニー!?」
 恋人の顔を見間違うはずはないと思いながら、そこに寝ていたのは紛れもないバーナビーの姿形をしていた。病院服の様な、簡易的な服を着ている。けれどその本人はまだトラのメンテナンスをしているはずで、これはどういう事だと思考を巡らせると虎徹は一つの答えに辿り着く。
「これもアンドロイドだって言うのか…?」
 そっと触れた頬の感触は人間と同じ皮膚の感触だったが、体温は感じられなかった。トラと同じなら、確かここだったはずと首の裏を辿るとやはり不自然な感触があって、人工皮膚が開く。無意識に震える指で、虎徹は電源ボタンを押していた。ゆっくりと開く瞼、光るエメラルドグリーン。虚ろだった瞳が虎徹を捉えると、彼の口が開く。
「カブラギ・T・コテツ…」
 しゃべる声もバーナビーそっくりだった。
「俺が判るのか?」
 虎徹はベッドの端に腰を下ろして落ち着こうとするが、緊張で声が震えているのが分かる。虎徹の問いには答えないまま、彼はむくりと上体だけ起こすと、そっと腕に触れてきた。
「やっと…会えた」
「おぉ?」
 そのまま腕を強い力で掴まれると引き寄せられて、抱きしめられる。
「会いたかった」
 些か力は強い気がするが、アンドロイドだとはいえそんなかわいい事を言われたら悪い気はしない。そっか、と笑って虎徹は抱き返してやる。しかし段々と抱きしめられる力は強くなっていき、苦しさにやんわりと抜け出そうとした所をするりと身体を入れ替えられ、体術で技を決められた時みたいにいつの間にか虎徹はベッドに押し倒されていた。
「だっ」
「コテツ、好きだ」
「…っ」
 唐突に愛の告白をして顔を近づけてくる彼が、何をしたいかなんて分かり切っている。両手首は一纏めに抑えつけられているが、振りほどけない強さでは無い。なのに、バーナビーと同じ瞳に見つめられていると抗う事が出来ず、虎徹は彼のキスを拒めなかった。
「ん…んんっ?」
 かわいいキスで終わるのかと思いきや、全く可愛気など無く、問答無用に口内を蹂躙される。絡んでくる舌の感触がやけに生々しいのはどうしてだ。
(アンドロイド…だろ?)
 唇は解放されても手首の拘束は解かれず、彼の唇は首筋を辿って、片方の手はネクタイを外しにかかる。混乱しながらもこの先の展開が嫌でも読めてきた虎徹は、そろそろまずいだろうと今更ながら抵抗の力を強めると、抑えつけてくる彼の力が尋常ではない強さになった。みしみしと骨が軋む。
「いっ…!?」
「逃がさない」
「ちょっと落ち着けお前っ」
 冷淡に言い放たれたその言葉に、虎徹の背筋を冷や汗が流れた。能力を使うのは人助けの為と心に誓っている虎徹だが、身の危険を感じればさすがにそんな事は言っていられない。気を集中させて能力を発動させようとした所で、部屋の扉の開く音がした。慌しく誰かが駆け込んで来る。
「止まりなさい、HE-00!」
「っ!」
 鋭い制止に拘束していた力は瞬時に緩んで、解放された虎徹の手は少し痺れた。訊き慣れた声のした方を見やれば、白衣に馴染みの眼鏡をかけた本物のバーナビー・ブルックスJr.が息を荒げて立っていた。