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ベイブ・イン・ザ・ラボ

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「大丈夫ですか、虎徹さん」
「おう。だーいじょーぶ」
「じゃないですよね? 絶対そう見えませんよ」
 バーナビーの長い指が伸びてきて、はだけられていた虎徹のシャツのボタンをきっちり止めると解かれたネクタイを結び直す。簡易ベッドの端に身を寄せられた虎徹の前に、バーナビーがしゃがみこんだ。見上げてくる瞳は明らかに怒っている。
「全く、遅いから心配したんですよ。携帯にかけたら部屋で鳴るから驚きました」
「はは…さんきゅ」
 迷っていたとは言い出せず、スマートホンを手渡されて間抜けすぎる自分に呆れて虎徹は乾いた笑いを浮かべながら謝ると、険しい顔をしたバーナビーに腕を掴まれた。
「虎徹さん、これ…」
 言われて、手首にやけにくっきりと拘束痕が残っている事に気づく。異様な力で抑えつけられていたのだから当然かと、冷静に考えていると何故かそこにキスをされそうになっていて、恥ずかしさのあまりバーナビーから腕を振り払った。
「そのうち消えるって!」
「コテツ、さっきはごめんなさい」
「んっ?」
 バーナビーから振り払ったはずの腕は背後にいた彼に掴まれていて、バーナビーがしようとしていたようにキスが手首の痕の上に落ちる。触れた唇の感触は柔らかかった。
「会えた嬉しさを抑えきれなかった」
 辛そうに目を細めて話す彼はまるで人間の様で、つまり感情表現が発達している、ということなのだろう。ついうっかり抵抗せずその所作を見つめてしまった虎徹は、傍らで悔しそうな顔をしているバーナビーに胡乱な瞳を向けた。
「バニーちゃん、せつめー」
「……HE-00、護衛用アンドロイドです。虎徹さんのハンドレッドパワーには及びませんが、ある程度力の強弱が使い分けられます」
「だからあんな怪力になったのかー…じゃなくて!」
「虎徹さんにだけは会わせたくなかったのに…どうして電源入れちゃったんですか!」
 感心しかけて詰め寄ろうとした虎徹は、盛大なため息を嘆くバーナビーに勢いが削がれてしまう。
「だってなぁ…」
 確認のついでに電源入れちゃったんだよという言い訳は呑み込んで、他にもどうしてバーナビーに似せているのかとか問いただしたかったのだが、しくしくと泣き出すバーナビーを見ていたらトラの件同様訊いても無駄な様な気がしてきて、虎徹はがしがしと頭を掻いた。これがつっこんだら負けというやつか。
「そういや、なんでこんなとこに置いといたんだよ」
「オレが欠陥品だから、だろ」
 不意に耳元で聞こえた声に首筋が泡立つ。するりと彼の腕が腰に回って、虎徹は背後から抱きしめられていた。元々そんなに離れていなかった距離が、また縮まる。
「あっ、こら、虎徹さんから離れなさい!」
「嫌だ」
 彼にとってバーナビーの命令は絶対ではないらしい。今度は虎徹から離れようとはせず、逆にすりすりと頬を寄せてきた。バーナビーのこめかみがぴくぴくとひきつる。
「欠陥って? ちゃんと動いてるじゃん」
「……アンドロイドなのに何故か自我が発達して、感情を持ち始めたんです。ここまではトラと同じ…というかHE-00の方が実は先に作られたのでトラが同じくなった、が正しいんですが。さらにHE-00の場合、会った事もないのに虎徹さんの事が好きだと言いだして…処遇の待機中だったんですよ」
 まくしたてた後のバーナビーのため息は重かった。だからあんなに熱烈歓迎だったのかと、虎徹は彼に抱きしめられたまま腕を組む。昨夜からバーナビーが焦っているように見えたり、トラの解析結果で動揺しなかったのも彼の事があったからか。ようやく腑に落ちた虎徹の頬に、柔らかな感触が触れる。彼にキスされたのだと理解する頃には問答無用で引き剥がされていて、今度は本物のバーナビーにぎゅうぎゅうと抱き付かれた。
「さっさと初期化でも、廃棄でも、すればよかったんだ」
 そう笑う彼の瞳は苦しそうに歪んでいて、不意に虎徹の胸を騒がせる。
「廃棄…って、せっかく作ったのに壊すのかよ」
「いえ、この件に関してはまだ審議中なんです」
見上げたバーナビーは苦い顔をしていた。バーナビーも、本意ではないのだろう。そして思い至った事実に、虎徹は眉を顰めた。
「なぁバニー。ひょっとして、トラもこいつみたいにするはずだった?」
「! 彼の場合、これからの経過を見ない事には…」
 動揺で身体を震わせたバーナビーは、らしくなく語尾を濁す。可能性はある、という事か。緩んだバーナビーの手を外して、虎徹は彼に手を伸ばした。
「お前、俺んちに来るか?」
「……え」
 虎徹の提案は予想外だったのか彼の先ほどまでの威勢の良さは消えて、差し出された虎徹の手を戸惑いの目で見つめてくる。その手を取っていいものか、揺らいでいるように見えた。
「ちょっ…虎徹さん、勝手に何言ってるんですか!」
「うるせー! せっかく作っといて思うようにいかなくなったから壊すって、可哀想だろ!」
 バーナビーを諌める声は思いがけず荒ぶって、虎徹は自信が怒っていた事に気づく。
「いいのか…?」
「おう!」
 虎徹は気持ちを落ち着けながら、おそるおそる握って来る手を力強く握り返してやった。つい癖で彼の頭に手を伸ばした虎徹は、触れる前に手を弾かれて目を見開く。
「あ、そっか。わりぃ」
 そういえば、とトラのメンテナンス前にバーナビーに注意された事を思い出した。脱力しきったバーナビーが、辛うじてつっこみを入れてくる。
「……虎徹さん、その癖直した方がいいですよ」
 アンドロイドの頭部は、衝撃に弱いのだった。