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鳴倉(なりくら)
鳴倉(なりくら)
novelistID. 28173
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夜鷹の瞳2

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「いや、俺は……!」
 マグリブはシンドバッドの言葉を遮り、女官に命じると次々に酒と食事を運ばせた。女官がシンドバッドに近づき椅子へと促す。しかしシンドバッドがそれを断ろうとするとうつむいた女官が小声で告げた。
「ご無礼を申し訳ございません陛下。しかしこのまま陛下が帰れば私どもがお叱りを受けます。どうか……」
 あまりに切羽つまった懇願をシンドバッドが無下に断ることなどできるはずもなかった。シンドバッドはマグリブに気づかれぬよう女官の肩をそっと叩き了承を示した。はっとした女官が顔を上げてシンドバッドを見つめてきたので、まだ幼いその娘に安心するようシンドバッドは微笑みかけた。

 シンドバッドが席につくとマグリブの合図で軽快な音楽が鳴りだし、純金の盃に葡萄酒がつがれた。燭台の灯りのみで照らされた室内に二人の踊り子の姿が浮かびあがる。一人は黒の長い髪を高い位置で一つに結わえ刺繍の施された布で目隠しをして、何も見えぬ状態で剣舞を舞った。一人は銀糸の短髪で金紗の口布をし、腕に掛けた絹布をまるで生きているかのように自在に翻して舞った。二人が足を踏み鳴らすたびに足首に嵌められた鈴のついた金環がシャラシャラと空気を心地よく揺らす。
 シンドバッドも初めは乗り気のない宴だったが、目の前に広がる光景の美しさには素直に感動し、好物の酒を飲むのも忘れるほどだった。もしかしたら「美しい」と口に出していたかもしれない。
 しかし夢の時はあっという間にすぎ、二人の踊り子は深くお辞儀をして舞の終わりを告げ、シンドバッドは賞賛の拍手を送った。
「どうです、素晴らしいでしょう!」
「そうだな。とてもいいものを見せてもらった」
「そうでしょうそうでしょう! 私もこの一座をギルド殿に紹介してもらってね。彼と取り合うこともしばしばなのだよ」
「ギルドから?」
 その名を聞いてシンドバッドは表情を険しくした。それは今朝亡くなった北東地区の領主、亡くなった事はまだ表に出さないように箝口令が敷かれているからマグリブはギルドが死んだことをまだ知らないのだ。
「マグリブ殿、ギルドはこの一座をどこで知ったのですか?」
「ん? どうだったかな。商人がやってきて紹介してもらったと言っていたような…、いや、それは別の話だったかな?」
「よく思い出してください!」
 シンドバッドが詰め寄ったとき、人の気配がすぐそばにあることに気づいてはっと振り返った。二人の目の前にいたのはあの踊り子たちだった。二人は膝を折り腕を胸の前で組んで頭を垂れ、剣舞を踊っていた方の少女が挨拶をした。
「今宵はお呼び頂き光栄です。しかも陛下の御前で踊れるなどありがたき幸せ。いかがでしたでしょうか陛下」
「あ、ああ。とてもよかった。いいものを見せてもらったよ」
「なんともったいないお言葉、恐れ入ります。私はシェラザード、こちらはジャーファルと申します。以後お見知りおきを」
 そう紹介されてシンドバッドが横の少女に目を移すとオニキスのような瞳でじっとシンドバッドを見つめてきた。何も含んではない、あるいは全てを含んでいるようななんとも捉えがたいその眼光にシンドバッドは一瞬たじろいだ。
「お前たちの舞はいつ見ても美しいな。本当は私が召抱えて専属にしたいほどだ」
「領主様ほどの方にそう仰っていただけて我々は果報者です。今後も是非ご贔屓に」
 そう言ってシェラザードが一層深く頭を下げると酔って上機嫌になったマグリブは二人を近くに呼んで足元に侍らせた。
「いやーよい気分だ。そうだ、シンドバッド殿ももし気に入った女子がいれば持ち帰ってくださって構いませんぞ」
 マグリブは大口お開けて笑い飛ばし、勢い良く酒をあおって口からこぼれた雫を手の甲で拭った。
「しかしもう一興欲しいところだな…。そうだ。おいお前、今度は服を脱いで裸で踊れ」
 マグリブは傍らにいたジャーファルを指差しそう命じた。突然命じられた少女は何も答えず、わずかに目を眇めた。
「どうした。黙ってないで早く踊れ」
 ただの宴だと静観していたシンドバッドも雲行きの怪しさを感じて腰を浮かせた。
「マグリブ殿、それはやりすぎだ。女性にそんなことをさせるなど…」
「なーに、旅の一座など娼婦まがいのこともよくしているものだ。裸になるくらいどうってことないだろう」
「しかし…!」
 シンドバッドが食い下がろうとすると、シェラザードが無言で手を上げシンドバッドを制した。驚くシンドバッドに彼女は微笑みを返すと、マグリブに向き直り再び跪いた。
「恐れながら領主様。この子は幼い頃戦に巻き込まれ体には多くの傷が残っております。肌を晒すのはご容赦ください。代わりに私が踊りましょう」
「お前のような商売慣れした女はもう食い飽きておる。こういう生娘にさせるのが一興なのだ。お前は引っ込んでろ!」
「……ご容赦ください」
 マグリブの言葉にシェラザードがなお食い下がるとマグリブは怒りに表情を一変させた。
「黙れ女っ!贔屓にしてやればつけ上がりおって。わしに逆らうならその目を潰すぞ!!」
 激高したマグリブが立ち上がり腰にさした短剣を抜くとシェラザードに突きつけた。それを見たジャーファルの表情に剣が増し、立ち上がりかけたところをシェラザードが肩を掴み止めた。華やかな宴の席に一気に張り詰めた空気が流れ、周りの女官たちも怯えて息を飲んでいるところにクスクスとシェラザードの微かな笑い声が響いた。
「何がおかしい!」
「いえ、領主様の望みが叶わず残念だと思いまして」
「残念だと?」
「ええ。だってわたくし……………もう目が潰れておりますもの」
 そう言い放つとシェラザードは一瞬でマグリブの眼前に迫り、目を覆う布を押し上げて見せた。
「っ!!!」
 布の下に隠されていた瞳はまぶたの縁が焼け爛れ、上下のまぶたを糸で雑に縫い合わせた痕が生々しく残っていた。
「ぶ、無礼者!!」
 激高したマグリブが持っていた盃をシェラザードの顔に投げつけ、彼女の髪から紅い葡萄酒を滴り落ちた。そのまま手にした短剣を振り上げたので、シンドバッドは慌てて二人の間に割って入りシェラザードを背後にかばった。
「剣を収めろ」
「なっ!?」
「『国王』の命令だ」
 その一言にマグリブの顔が大きく歪んだ。マグリブがシンドバッドをただの若造としか思ってないのは百も承知だ。だがなんと言おうとこの国の王はシンドバッドであり、彼こそが最高権力者である。逆らえばすなわち逆賊。
「気分が優れぬ! 申し訳ないが陛下、私はこれにて失礼させていただく」
 悔しげな表情で剣を収め、マグリブは席を立った。しかし去り際にジャーファルの顎を掴んで自分に目を向けさせると、息がかかるほど近くで低くささやいた。
「一緒にわしの部屋に来い。身内の失態は仲間が償うものだろ? 身体でな」
「…………」
 下碑た笑いでマグリブは舌なめずりをするとジャーファルの顎に置いた手でそのまま首筋を撫で下ろし、服の襟に手を差し入れてなめらかな鎖骨のくぼみをたどった。ごくりと唾を飲むマグリブを冷めた目で見つめたまま、ジャーファルは何も言わずに部屋に戻るマグリブの後に従った。
「お前たちは仕事に戻れ! 陛下がお帰りだ!」
作品名:夜鷹の瞳2 作家名:鳴倉(なりくら)