こらぼでほすと 約束3
「まあ、言っておくことは山ほどあるだろう。家具の配置を変えておけばいいな。」
「そういうことなら、虎さん、頼んでもいいか? 俺がラボのほうは担当しておく。」
ただいま、ラボは準備の最終段階で、常時、責任者が在中している。虎と鷹が、その担当だから、そこいらは互いで決めてもらえばいい。刹那は、この最後の休暇が終わったら、宇宙へ上がる。エクシアにブースターをつけて、ラボから上がるだろうから、その手配を鷹が整備責任者のマードックと手配しておく。予定より遅れているが、八月の頭には動くはずだ。組織のほうは、刹那の機体以外は、ほぼ調整も終わっている。現在は三機のテストをしている段階で、紫子猫もエクシアの太陽炉を待ち侘びているだろう。
「そうしてもらおう。あそこなら、アスランの目が届くから、何かあっても対応できる。」
「そうだな。まだ暑いから、気をつけるように戻ったせつニャンにも注意しておく。」
「後の沈みのほうが、俺は心配だ。どうせ寝込む。」
「それは、ママニャンの標準装備みたいなものだ。年少組に騒がせるさ。」
刹那が宇宙へ上がったら、ニールは気に病むだろう。そこいらの沈みは、戻って来る三蔵と年少組で、どうにかしてもらうつもりだ。それでもダメなら、トダカなり、自分たちなりが出張ればいい。そこいらは、スタッフ一同、心得ているから、皆、出張る気満々だ。
刹那の帰還の連絡が入ったのは、それから数日してからだった。帰って来る直前ではなくて、前日にマンションに掃除がてらに戻ったニールには、ハイネがついてきた。
「休みじゃないだろ? おまえさん。」
「まあ、そう邪険にすんなよ。ひとりにすると碌なことがないって、鷹さんからの命令だ。」
事実なので、ニールも文句は引っ込める。ひとりだと、鬱々と考え込んで碌なことにならない。部屋は夏仕様になっていて、クリーンサービスも入れたのか、こざっぱりしていた。どこといって掃除するところはないのだが、少し考えたくて早めに戻った。
「とりあえず、言っておくことがある。せつニャンが戻るまで、こっち居座るつもりだ。・・・あと、おまえさんの部屋にダブルベッドを入れてある。変ったのは、それくらいだってさ。」
夏仕様の居間のソファに、どっかりと腰を下ろして、ハイネは、まず部屋の変った所を説明する。どうせ、黒子猫は親猫と眠るだろうから、ベッドを大きなものに入れ替えた。冬物の家具や絨毯は、空いた部屋に収納してあるぐらいのことだ。
「言っておくこと? 」
ニールのほうも、ハイネの言葉に対面のソファに座る。改まって言わなければならない用件なら、きちんと聞く。
「おまえさんの実弟についてだ。・・・・こちらでも情報は押さえたんだが、まあ、マイスターとして使えるだろうと、俺は判断している。ただし、その事実は、まだ完全にせつニャンには伝えていない。」
「ああ。」
「もし、おまえさんが、やっぱり実弟を組織にやりたくないって思うなら、マイスターには不適格だと俺は、せつニャンに伝えることができる状況だ。そこのところ、少し考えてみろ。」
「ハイネ、それは・・・。」
「確かに、カタロンの現状からすれば、組織のほうが生存率は高いだろう。だが、それだって、実弟をカタロンから外せば問題はなくなる。騒ぎが収まるまで、どこかへ隠しておくことも可能だ。例えば、プラントとかな。」
死なせたくないから、組織へやる、というのなら、隠しておくという選択肢もあることはあるのだ。人ひとりを隠すぐらい、ハイネには訳も造作もない。一年か二年、どこかへ軟禁でもしておけばいい。確実に生きていられる。憂いの原因が、ひとつ減れば、ニールも少しは楽なのだろうか、と、ハイネも考えたのと、ニールにも実弟を組織にやる、という決断をはっきりさせたかった。だから、その話をするためについてきた。
「考えろ。せつニャンが戻るまでに決めればいい。」
そう言って立ち上がろうとしたが、ニールは、「もう決めてるんだ。」 と、ハイネと、はっきりと視線を合わせた。
「最初から、刹那に、ライルの話をした時から・・・組織に勧誘させてマイスターにさせることは、俺の中で決まってた。今更、その考えは変えるつもりはない。もし、ライルが生き残れなくても・・・それは、仕方がないことだ。ライルは組織が性に合わなくて拒否するかもしれないし、カタロンで戦うかもしれない。どこに居たって、どうなるかなんてわからないことだ。おまえさんが言うように隠したとしたら、あいつ、絶対に逃亡する。そうなったほうが危ない。」
ライルのことを調べてもらった時に、ニールは決めていた。組織のほうが、生存率は高いこともだが、後を任せるならライルがいい、と、考えたのだ。マイスターは四人が基本だ。三人ではフォーメーションも組めないものが多々でてくる。刹那が戦うのに必要であるし、実弟も戦うつもりなら、組織で戦えばいい。カタロンよりは生き残れる可能性が高いし、信頼している刹那と一緒なら、さらに生き残れるだろうと、そんなふうにも考えていた。だから、それを変えるつもりはない。戦わず隠れているなんて、最初から選択肢にはなかった。それを享受するような実弟ではないし、それでは実弟が選ぶ未来も壊してしまうだろう。これは、すべて、ニールの自己満足な考えだ。十年以上離れている実弟が、どういう性格になっているか、それさえも憶測で導き出したもので、実際はわからない。最終的にマイスターになることを受け入れてくれるのかもわからない。予測では、受けると踏んでいる。それがカタロンのためにもなると、ニールの知っているライルなら考えるはずだからだ。
「俺はライルの保護者じゃない。あいつが生きていればいい、とは思うけど、強引な方法で生き残らせても、納得しない。・・・だから、ハイネが言う方法は却下だ。」
「本当に、それでいいのか? 」
「じゃあ、おまえさん、これからの戦闘は危ないからプラントへ帰れって、俺が言ったら納得するか? しないだろ? 俺だって、今でも納得してないよ。どうして戦えないんだ、って地団駄踏んでるんだ。選ぶのは刹那とライルだ。俺が勝手にやっていいことじゃない。」
刹那が勧誘する方法は、これから教えるつもりだ。引っ掛かるように、細工はする。だが、それでも、その勧誘に引っ掛かるのは、ライルの選択だ。
ハイネも断られるだろうという前提のもとだから、ニールが、そう言うのなら、それでいい。だから、「わかった。」 と、返事する。
「まあ、簡単には死なせないさ。うちも動く。ちびたちも、おまえの実弟も救助するつもりだからな。」
「頼むよ。」
「俺の話は、これで終わり。とりあえず、メシでも食いに行こうぜ。」
「刹那の夏服の準備もしたいから、そこのスーパーでもいいか? 」
「え? たまには、オシャレなイタリアンでも行こう。それから付き合ってやるからさ。俺の行きつけのとこでいいだろ? 」
作品名:こらぼでほすと 約束3 作家名:篠義