Kid the phantom thief 前編
―Ⅰ―
黒い衣装を身に纏う怪盗キッドが現れ始めたのはいつからだったか。
怪盗キッドがいつもの如く華麗に宝石を盗み出した。
中森警部率いる警官達が逃すまいと怪盗キッドを追った。
その中の一人の警官だった。
「銃声が聞こえました。」
発砲許可は出ていなかった。
だが、その警官は確かに銃声を聞いたと証言したのだ。
そしてその日を境にプツリと予告状が途絶えた。
初めは誰もが信じていなかったのだが、
キッド死亡説がどこからかあがり、世間はその真実追求に躍起になった。
だが、その噂に答えが出たのはそのすぐ後だった。
怪盗キッドからの予告状が届いたのだ。
キッドは生きてる・・・
『怪盗キッド』泥棒でしか無い彼が生きていたことを誰もが祝福した。
そして誰もが予告日を心待ちにした。
予告日になり、キッドの狙う宝石は全国に生中継された。
大庭園のど真ん中、警察官がぐるりと囲う中心にライトアップされたそれがキラキラと光る。
予告時間が迫り緊迫感が漂った。
そこかしこでカメラに向かってアナウンサーが話しかけている。
だが、その声も止み――
5、4、3、2・・・・1・・・・・
0
真っ白いバラの花びらが舞った。
警察官以外が歓声を上げた。
喜び、その名を呼ぶ。
怪盗キッド――
ヒラリと違う色のものが舞った。
自然とその色はその場の人間の言葉を奪う。
その瞬間真っ白なバラの花びらが消え、
すべてが真っ黒なバラの花びらに変わる。
辺り一面が黒い花びらに覆われる。
静まり返ったその場にタンッという小さい音がした。
振り向けばそこには怪盗キッドが居た。
真っ黒な怪盗キッドが。
黒いシルクハットに黒いスーツ、赤いネクタイ、真っ黒なマント。
ただ一つ白いモノクルが以前の怪盗キッドを思い出させた。
そして黒い手の中には何かが光っていた。
見ると、宝石を飾るショケースの中に宝石がない。
誰よりも早く動き出した中森警部が走り出す。
そして大声をあげる。
「そいつを捕らえろっっ!!!!!」
警官達が声をあげて慌てだす。
カメラマンやアナウンサー、見に来た野次馬も動き出す。
カメラがキッドを捕らえる。
アナウンサー達が必死に状況を伝える。
警官達が取り囲んでもキッドは動じなかった。
中森警部がキッドの足元まで来たとき、
キッドは人差し指を立て、口元に当てた。
「 」
「 !!?? 」
シルクハットを脱ぎ、胸に当て、
キッドが一礼をする。
顔をあげたキッドは、
キッドは泣いていた――――
「・・・・・・・・怪盗キッド・・?」
シルクハットを被り両手を広げ空を仰いだ瞬間、
地面に散らばった黒い花びらが一気に舞い上がる。
その一瞬のスキにキッドは姿を消した。
宝石はキッドの居た場所に置かれていた。
はぁっはぁっはぁっ―――
キッドっ・・ごめん・・・・
路地裏に逃げ込み、震える足を抱え込んだ。
シルクハットをずらし目頭に当てる。
そこから流れるものは止められなかった。
これはきっとお前の望むことじゃない。
だけど、俺は・・・っ・・・
これは俺が決めたこと。
お前は悪くないから。
俺の勝手だから・・
怒るなよ・・
謝るから・・
大丈夫。
ダイジョウブ――
あれは本当にキッドだったのか。
偽者だったのではないか・・・。
何年もキッドを追い続けている中森警部は何も語らなかった。
同じくキッドを追う高校生探偵は「あれはキッドじゃない」と言い切った。
それが話題を呼び、キッド死亡説が消えることは無かった。
だが、謎は解けぬまま黒い怪盗キッドは現れ続けた。
何かをずっと探していた白い怪盗キッドのように。
誰かが言った。
キッドの衣装は光に当たると赤くなる―――
作品名:Kid the phantom thief 前編 作家名:おこた