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Kid the phantom thief 前編

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―Ⅲ―





はぁっはぁっはぁっはぁっ―――

はぁっはぁっ――


さすが中森警部だ。






今夜も怪盗キッドは予告通り現れた。
狙われていた宝石は見事に奪われてしまった。
そして黒い怪盗キッドはいつものように屋根に上がる。
そして頭上に宝石を翳す。

ぐるりと周囲を見渡すとスルリとその場から姿を消す。
そしていつの間にか返されている宝石。


キッドは変わってしまった。

長年キッドを追い続けていた中森警部は以前のような闘志が湧かなかった。
黒い怪盗キッドに変わってしまったときから。

怪盗キッド死亡説が浮上したときは信じなかった。
そして予告状が送られてきたとき、震え上がった。

キッドが生きていた!!!!!!と、


だが、黒い怪盗キッドが初めて現れたあの日、

キッドが人差し指を立て、口元に当てた――

「       」


絶望を感じた。

あぁ・・・キッドは死んだのか―――と。



何もかも気にくわなかった。


なぜあんな顔をする・・・


なぜ涙を流す・・・


なぜそんな無茶をする・・・



その・・・・



血塗られた衣装はなんだ――




黒い怪盗キッド、お前は・・・
自分が追い続けたキッドは殺されたと、殺されたんだと伝えたいのか?
それが誰なのか探しているのか・・・?
そのためにお前はそんなものを着続けているのか?

宝石なんてどうでもいいという顔をして・・・





宝石が戻ったという報告は聞いた。
だが、逃がすわけにはいかない。


逃げ回るキッドを何処までも追い続けた。
役立たず部下共はとっくに見失っている。
走っているのは今にも闇に溶け込みそうなキッドと俺。


そして人が通らない路地裏。
背後から人のしゃべり声が微かに聞こえてくる。
正面は行き止まり。


目の前には真っ黒な怪盗キッド。


「はぁっはぁっ・・・流石ですね中森警部。」


お前はマジック以外は完璧だよ。
よっぽど研究したんだろうな。

だがな、俺には全然違って見える。
あの若造だってすぐに気付いた。

お前の放つ雰囲気。
お前を取り囲む空気。

それが全然違うんだ。



中森警部は路地の唯一の出口を己の体で塞ぎ、怪盗キッドに詰め寄った。


作品名:Kid the phantom thief 前編 作家名:おこた