Kid the phantom thief 前編
―Ⅳ―
ゴホッゴホッゴホッゴフッッ
はぁっはぁっ・・・・
今にも意識が途絶えそうだった。
でも今、意識を飛ばすわけにはいかない。
一体―――
「・・・・・・誰だ。」
「私は味方です。」
「・・・。」
「今はとにかく安全な場所へ、この服を。」
フラフラで自身の足では歩くのが困難だったので、
新一は正体が分からないがその男の言うことを聞くしかなかった。
住宅街に入ると小さな公園を見つけた。
そこのベンチに新一は横たわる。
寺井と名乗った男は水道で濡らしたハンカチを新一に渡した。
「・・・で、あんたは誰なんだ?」
まだ目が霞んでいたが、聞かなければならない。
この男の話を。
「私は寺井黄之助と申します。」
「俺のこと・・は知ってるみたいだな。」
「はい、よく存じております。
私は怪盗キッドの協力者でしたから。」
「・・・っ!!!?」
いつかは現れるだろうと思っていた。
『怪盗キッドの協力者』にやっと会えた――
「あなたのよく知る怪盗キッドは2代目です。
私は先代の怪盗キッドの付き人をしておりました。
先代のキッドの名前は黒羽盗一。この名はご存知でしょう?」
「・・・嘘だ・・ろ・・?」
「本当でございます。
黒羽盗一様は何者かに暗殺されました。」
「・・事故死じゃなかったのか?」
「一人息子である快斗ぼっちゃまは父親を殺した人物を探すべく、
自ら怪盗キッドとなりました。今のあなたのように。」
初めて知った怪盗キッドの正体。
そして俺の知る怪盗キッドが怪盗キッドである理由。
「・・・・・・。」
「もうこのような負の連鎖は終わりにしたいのです。」
「そういうことか、」
「怪盗キッドを辞めていただきたい。」
言われるとは思っていた。
理由は何にせよ。
俺は勝手にあの衣装を着ている偽者でしかない・・・。
それに、俺はちゃんと『怪盗キッド』を演じていない。
中森警部にはバレバレだし、あの探偵には見限られた。
キッドをよく知る人たちにとっては・・・怒りがわくだろうから。
でも―――
作品名:Kid the phantom thief 前編 作家名:おこた