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こらぼでほすと 約束4

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 ティエリアが、ロックオン・ストラトスは現役登録したままにした。だから、そのコードネームは生きている。死んだ兄の代わりということで、組織に勧誘されるというなら、筋道は立っている。ニールは、遺伝子治療ができなければ組織には戻れない。どう考えても、現状では無理そうだから、ロックオン・ストラトスとして戻れる可能性はない。いつまで生きていられるのか、それすらも不透明な状態だから、コードネームは自分のものに戻ることはないだろう。ただのニール・ディランディとして、『吉祥富貴』に存在していればいい。刹那たちが戻れる場所であるというなら、それで十分だ。
「・・・確かに、あんたは復帰させるつもりはないが・・・・」
 もちろん、刹那たちもニールを復帰させるつもりはない。二度と、あんな戦い方はさせたくないからだ。復帰させれば、同じことを繰り返すだろう。ニールの戦い方は、そういうものだ、と、理解した。最終的に相討ちになっても、敵を沈める。そんな戦い方だ。刹那には、それが怖い。あんなふうに慟哭させられるのは一度でいい。
「なら、それでいいだろ? ・・・・最初はフォローしてやってくれな? 刹那。」
「最初だけじゃなくて、あいつのフォローは俺の仕事だ。必ず生かして終わらせる。それは、あんたに誓う。絶対に守る。」
 ニールの唯一の肉親まで奪ってしまったら、ニールには何も残らない。刹那たちが居るのと、肉親の実弟が居るのとは違うものだ。だから、それだけは必ず守り通す。家族全てを失わせてしまうなんて、刹那には許されない。だというのに、親猫は優しい微笑を浮かべて、黒子猫の頭を撫でた。
「守らなくていい。あいつにはあいつの考えがある。刹那が無理をして怪我をしたら、そのほうが組織には問題だ。おまえが生き延びることを優先してくれ。」
「そうはいかない。これ以上、あんたから大切なものを奪うわけにはいかないんだ。・・・俺にできるのは、あんたの弟を守ることだけだ。だから、そんなことは言うな。」
「刹那、俺の大切なものは、おまえたちだよ? ライルは、俺の大切なものからは外れてるんだ。だから・・・・。」
 いつものように穏やかにニールは、そう言って、刹那の頭を撫でる。何度も何度も、俺は騙されている、と、刹那はギロリと、そのニールの瞳を睨む。右眼は動かないが、刹那の姿が映っている。左眼にも同じように映るが、こちらは眼球が動いている。それを見て、腹立たしくなって、ピシャリとニールの頬を叩いた。
「俺に嘘はつくなっっ。何度言えば、あんたは改めるんだ? 今のは嘘だ。そんなことはない。あんたにとって家族は大切なものだ。特に生きている弟は、一番大切なはずだ。」
「・・・刹那・・・」
「あんたの本心を曝け出せ、とは言わないが、俺に嘘はつくなっっ。」
 もう一度、ピシャリと平手打ちをして、刹那は睨む。なんのために、暴走して死にかけたというのだ。家族の敵を討ちたくて暴走したクセに、こんなことを言うのだ。信じろ、というほうがおかしい。ニールが無口な刹那の言葉を理解しているように、刹那だってニールの気持ちは理解している。それだけ長い時間、一緒に組織に居た。だから、せめて自分には本当のことを話して欲しい。睨みあっていたが、ニールのほうが視線を下げた。
「だけどな。実際問題、新人マイスターなんかを守って、主戦力の刹那が危うくなるほうが、全員が生き残る確率も下がるんだ。フォローはしてやって欲しいが守る必要はない。」
 俯いたままで、ニールは、そう言った。対面に座っていた刹那は、立ち上がってニールに抱きつく。なぜ、自分のおかんは、助けてやってくれ、と、言えないのだろう。不器用だな、と、口元を緩める。八歳も年上の親猫は、実は不器用な人だ。刹那のためにならないことは、親猫が辛くても切り捨てようとする。そんなことをしなくてもいい。刹那には、守れるだけのものがあるとは信じてくれない。
「フォローだけじゃ心許ない。守れる限りは守るぞ。」
「だからさ。」
「あんた、俺は過小評価している。俺はマイスター組リーダーになるんだ。それぐらいのことがてきなくて、どうする? あんただって、ティエリアを庇ったくせに・・・俺のことだって守っていてくれたクセに・・・俺には、あんたほどの技量はないと断じているのか? 」
 ティエリアを庇ったのは、さすがに咄嗟のことだったらしい。やっちまった、と、ニールも自嘲していた。冷静であれば、自分が傷つかない方法を考えただろう。それができなくて、正面から突っ込んだ。刹那にしても、一緒のミッションの時には背後から構えていて、刹那の暴走は止めていた。コクピットを開けて、アリーアル・サーシェスと対峙した時も大事になる前に、相手を牽制してくれた。どれだって刹那を守ろうとした結果だ。ミッションの後で殴って叱っていたのも心配してのことだ。それぐらいのこと、刹那にもできなくてはならない。一人で世界を放浪して、そういう経験も積んだつもりだ。ぎゅうぎゅうと親猫に抱きついて腕に力を込めた。すると、親猫は、ぽんぽんと刹那の背中を軽く叩いた。
「おまえのほうが技量はある。それは、俺も認めるよ。」
「なら、俺の言うことも認めろ。」
「・・・俺みたいに失敗しないならいい。だが、ギリギリの状態になったら切り捨てろ。おまえがマイスターの要だ。・・・結局な、おまえが動ける状態でいなければ、俺の弟も助からない。おまえが動けなくなったら、組織の実働部隊は壊滅する。そこのところは覚悟しておけ。」
 ニールが途中で戦線離脱したから、ミッションの成功率は下がって、壊滅状態に陥った。復讐に意識を持っていかれたニールは、そんなこと放棄してしまったが、あれこそが組織に対する最大の裏切りになった。万全の体勢でなかったから、対艦攻撃は失敗したのだ。それらを鑑みれば、刹那が生き残ることがミッションをクリアーするために不可欠となる。結果的に、刹那が無事でいることが組織の存続にも拘わるのだと、ニールは丁寧に説明した。
「・・・俺は・・・それを忘れた。ティエリアを庇って負傷したことは問題じゃない。あの時、あの男を振り切って対艦攻撃をするべきだった。そうすれば、連邦のMS部隊も動揺して、もっと戦場を混乱させられたはずなんだ。ライルを助けることを優先して、ミッションのクリアーができない事態になるのなら、ライルを守ろうとしなくていい。自力で、どうにかさせろ。」
 まあ、それも難しかっただろうが、旗艦を大破させていれば状況は変ったのは否めない。それぐらいのことは、常のニールならできたことだった。だから、その部分で取捨選択は間違って欲しくない。だが、その言葉に、刹那は視線を合わせて、「嘘吐き。」 と、低く呻くように呟いた。
「あんたの嘘は聞き飽きた。」
「嘘じゃない。戦場で冷静さを失ったら負けるっていう戒めだ。」
 現に、俺は死んだだろ? と、親猫も視線を合わせて睨む。冷静に考えていたら、デュナメスで逃げればよかったのだ。執拗に、アリーを殺すことに固執したから、死ぬ結果になった。刹那まで、そうなってはならないから、そう戒めている。
作品名:こらぼでほすと 約束4 作家名:篠義