こらぼでほすと 約束5
出発は深夜枠に、というのが最初から決まった予定だ。ハイネのグフイグナイテッドを発進させて数秒後に、刹那のエクシアを発進させる。航跡を合わせることで、刹那のエクシアをグフだと誤認させる予定だから、その夜は、年少組はラボへ集結して作業する予定になっている。騒いで、そのままの勢いでラボへ移動するというなら、それはいいだろう、と、アスランも同意する。騒いでおけば、ニールは疲れて、そのまま眠れる。翌日から、シンとレイが寺へ日参するつもりだ。
「じゃあ、食事も準備して・・・寺で花火大会と水掛け合戦ってとこだな。悟浄さんと八戒さんにも召集をかけておこう。じじいーずは、ラボで準備するから不参加だからな。」
「あっそうか。僕も前日までに用意しとかなきゃ。アスラン、二、三日、別荘のほうに居座ろう。」
「了解。手配しておく。」
「ラクスは? 」
「今、北欧から南欧へ移動中だ。戻って来るのは・・・・二週間後だな。ちょうどいいんじゃないか? ニールの相手をしてもらえる。」
「そうだね。僕も、おやつを食べに行くつもりだけど、毎日は厳しいんだよねぇ。」
キラは、ハイネが宇宙から送ってくるだろうデータの解析の仕事がある。毎日、寺へ出向くのは難しい。
「盆休みはオーヴだしな。俺たちは、できる限りにしておこう。」
「お盆が終わったら、寺へ泊まりに行きたい。」
「はいはい、ニールに頼んでおく。」
店のお盆休みは、オーヴでウヅミーズラブとの打ち合わせやら、オーヴ本国のマザーコンピューターのチェックなどの仕事が入っている。一応、ニールには里帰りということになっているが、実際は、そういう用件だ。組織が再始動するまでに、準備は終わらせておく。三大大国もしくはアローズによる物量作戦があれば、その時は、『吉祥富貴』も、宇宙へ上がる予定だが、再始動直後は、それもないはずだから、ハイネとシン、レイだけが宇宙で待機の予定だ。まず、ファーストミッションを完璧に遂行させて、再始動の難しさは、そこからだ。四機しか存在しないMSで、アローズの大攻勢に打ち勝たなければならない。
「ひとり、素人さんだもんね。」
「マイスターとしてはな。だが、MSには搭乗した経験もあるし、ニールと同じようにライフルも、かなりの腕前らしいから、素人は可哀想だ。キラの初陣よりは素人じゃない。」
「僕に初陣させちゃった人が、何か言ってるぅー。」
「だって、俺、キラが、あんなとこにいるなんて知らなかったぞ。」
「僕は教授に頼まれて手伝ってただけ。どっかの紅い人たちが強奪に来なければ、僕は素人のままだったよ。」
「本当に、そうだな。巡り合わせが最悪だった。」
しみじみと、その当時のことを思い出して、アスランも苦笑する。あれがなければ、自分たちは、こうなっていなかった。結局、アスランはキラの許へやってきた。どうしても、ザフトやプラントの方針に納得がいかなかったからだ。キラがMSに搭乗していなければ、この世界は違う形に変っていただろう。そう思えるほど、キラは優秀だった。
「でも、そのお陰でアスランと再会して、こうなっちゃったわけだけどね。・・・・だから、僕は、この世界が抑圧されたり一部の大国の思惑で変えられることは反対。」
「俺も、それには賛成だ。来年は派手に暴れることになりそうだ。」
「隠密に、こっそりなんだけど? 」
「くくくく・・・・キラ、自分で言ってて虚しくないか? どう考えたって、救助の時は派手に蹴散らすことになると思うんだけどなあ。」
表向きには、『吉祥富貴』は戦争不参加ではあるが、マイスターたちを救助するためなら、かなりの無茶はやる気満々だ。大人しくボロボロになっていく刹那たちを見ているつもりなんかない。ある程度は、救助目的という名目で攻撃も仕掛けることになる。その急先鋒はキラだ。
「ティエリアが、どちらの役割もできれば、もう少し動きやすいんだけど・・・それって無理なのかなあ。」
「生体端末全体の仕切りをしている親玉を、どうにかすればな。」
「あれ、ヴェーダに一番リンクしてるから引き剥がすの難しいんだよね。どこかで、あれから主導権を奪えればなんだけど・・・そうなってもティエリアのリンクが復活するのかも微妙。たぶん、ティエリアの優先順位って低いから、親玉と、その周辺のを全部破壊しないと無理だ。でも、そうなったらティエリアは、どうなんだろう。全部のデータを掌握しちゃったら、マイスターはできないかもしれないんだよね。」
「そんな攻撃をヴェーダに仕掛けたら、さすがに抵触だよ? キラ。あっちからアローズを通じて、俺たちも攻撃される。」
「そこがネックだね。とりあえず、刹那たちが親玉以外を撃破してくれれば、僕らも攻撃できるから、それまではお預けかな。」
キラとアスランだけが握っている情報だが、組織の再始動が後半戦にかかる頃には、『吉祥富貴』のスタッフにも知らせるつもりだ。ティエリア当人も、今は知らない隠された記憶がある。それが戻れば、組織も動きやすいはずなのだが、戻すには、ヴェーダの奪還が必要になるから、今は、まだ無理だ。
「俺は、ティエリアが人間だって言うニールが、どこまで知ってるのか興味がある。」
ニールは、常々、ティエリアに、「おまえも人間だ。」 と、言い続けている。それは、ティエリアが、それだけではないことを知っているからだ。ど゛こまで情報を握っているのか、確認したことはないが、マイスター組リーダーだったから、組織の最深部の情報も、いくつか握っているのだろう。
「ママは、知ってても僕らには教えてくれないよ、アスラン。それ、組織の機密事項だもん。」
「そうだろうな。俺たちも知っていることを全部話しているわけじゃないんだから、お相子だ。でも、ニールは悲しまないかなって俺は考えるわけ。ヴェーダを掌握したらティエリアは変わってしまうかもしれない。」
「それこそ、愚問。ティエリアがママとの記憶を棄てるとは、僕は思わない。それがなくなっちゃったら、ティエリアじゃないよ。」
「そうであって欲しいな。」
「欲しいじゃなくて、忘れない。ティエリアの心に根付いてることまで剥がすことは、ヴェーダにもできないはずだ。」
ニールが延々と言い聞かせていることは、ティエリアの心の部分に染み込んでいるはずだ。だから、それは消えない、と、キラは確信している。ヴェーダの生体端末たちを掌握できないのは、各個に、そういうものが存在していて画一化したデータではなかったからだ。キラは、ヴェーダを掌握しようとして、それが難しくて断念した。生体端末各個が記憶したものは、そのままだという証拠だから、ティエリアも忘れないと断言できる。ヴェーダを奪還したとしてもティエリアとニールの関係は変わらない。むしろ、キラには、そのほうが好都合だ。ヴェーダをキラの手の内にすれば、世界の動きを誘導することも可能になる。
昼寝から覚めた親猫に、明日はどこかへ出かけようと提案したら、喜んだ。行く先は? と、尋ねられて黒子猫は任せる、と、言ったら、ふーむ、と、両腕を組んで候補をいろいろと挙げてくれる。とはいっても、黒子猫は興味があまり湧かない。
「あんたの行きたいところへ短時間ということなら、俺は、どこでもいい。」
作品名:こらぼでほすと 約束5 作家名:篠義