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一方通行

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俺は彼奴、アメリカを失って悲しみに暮れた日々があり、正確にはまだ立ち直れていない。
言葉で表現しようにも、その喪失感と虚無感は形容しがたい。
個人的に彼奴を失ったことと国家的にアメリカを失ったことは、俺の中でごちゃ混ぜになって二重の悲壮感を生み出している。
これはこれ、それはそれなんて割り切り方できない質なのだ。
だから本心としてはアメリカを求めているのだと思う。
恋心とかそうゆうのとはちょっと違う気がする。
そこにいないと落ち着かない、当たり前が消えた感じ。
違和感と言えばいいだろうか?
だから、彼奴の傍にずっといたい。そんなエゴ。

だが、それに反して彼奴から離れなければ、と俺の意識のどこかが警告している。
超大国となったアメリカにあれこれ手を出そうものなら、きっと返り討ちにされるだろう。
それにアメリカが自分から自立したのだ、今さら何を俺がしてやれるだろうか?
絶対に何もない。
断言できる。
自分の欲しいままにできるだけの力をアメリカは持っているし、情報社会の今日に自国にこの世にあるものならほとんど揃っているだろう。
物理的でないもの、つまりは俺の魔法とかならないことはないが、そもそも彼奴はその存在を否定しているし、異星人っぽい奴とかクジラとかそんな超次元的な友人がいる。
だから俺から与えてやれるもの等無いわけだ。

アメリカが独立したことは時が経って振り返ってみれば、悲しくも嬉しくもあることだった。
彼奴は俺のことを懐古趣味だとさんざん言って馬鹿にする。
確かにあの頃アメリカを保護する義務に駈られた俺にとって、そうそう信頼関係など築けない俺にとって、彼奴は保護対象なだけではなく弟であり心の拠り所だった。
唯一俺が愛すことのできる相手だったと言える。
だが、歴史的にも文化的にも独立は必然的だったし、彼奴もそれを望んでいた。
独立直後はいっぱいいっぱいだったが、多少の余裕ができた現在の俺は回顧して気付いた。
愛する者の本望が叶ったのだ、忌むべきことではなく寧ろ喜ぶべきことなのではないのか。
それは彼奴の俺から離れたいというエゴが叶ったと言えるのではないだろうか。
それならばあの時の彼奴との衝突は俺と彼奴とのエゴが争い、俺の方が力量的な、または精神的な差異によって敗北したということだ。
前提条件、俺はエゴを許容する。
つまり、彼奴を許さなければいけないわけだ。

作品名:一方通行 作家名:踔蟲