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瀬戸ちなみ
瀬戸ちなみ
novelistID. 35646
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【米英】冬生活

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ミルクティーを飲み終わる頃には、俺の予想通り、庭は真っ白になっていた。空になったティーカップを片付けようとは思うが、エアコンをつけていてもなんとなく冷え込んでいる部屋で毛布をかぶっていると、動きたくなくなる。

(あとで、いいか)

鼻の頭まで毛布を引っ張り、隣で新発売のゲームをしているアメリカを見る。この冬は、このゲームで乗り切るんだとかいって、さっき買ってきたのだ。アメリカは、外の雪になんか目もくれず、一心不乱にゲームをやっている。もう何時間たつだろうか。このゲーム攻略ひきこもり期間に、俺はただ付き合わされているだけなのだろうか、とぼんやり思うが、文句を言う筋合いもなく、別にやりたいこともないので静観するしかない。テレビの大画面では、気持ち悪いゾンビが次々と出てきて、アメリカの操作しているキャラクターが、そのゾンビを打ち抜いていく。アメリカは一心不乱にコントローラーのボタンを連打している。

「なんか、呪われそうだ」
「へ?なに?」

画面から目を離さず、アメリカが言う。

「ゾンビ殺しまくって、呪われそうだって、言ってんだよ」
「また君は…そんなことで、俺が怖がるとでも?」

べーつーに、と俺は間延びした声で言って、あくびをする。仕事が終わって、直行でアメリカに会いに来たせいだろうか。暖かさも手伝って、眠気が俺を襲う。

「あ、さては君、嫉妬してるのかい?」

ひときわ大きい音がして、ゾンビの親玉みたいなのが爆発する。俺はテレビ画面と、ニヤニヤしているアメリカを交互に見て、目をこする。あぁ、ゲームに嫉妬しているのか。なるほど。

「そうかもな、嫉妬、してるかも」
俺は寝ぼけたままそう言って、そのままアメリカの肩に頭を預ける。やわらかな毛布と、アメリカの肩が気持ちいい。まぶたがゆっくりと落ちていく。

「な、なんだい?さっきの仕返しのつもりかい?」
「…うん、そうかも、な…」

ボタンの連打音が部屋から消え、俺は完全に目を閉じた。

「…寝ぼけてるじゃないか」
アメリカが溜息まじりにそう言ったのが聞こえたが、俺はもう何も答えなかった。アメリカも、もう何も言わなかった。代わりに、優しい腕が俺の背中に回される。俺はそのまま胸に頭を預け、眠りの世界へ意識を投げる。やわらかくて、あったかい。優しくて、心地よい。こういうのを、なんというのだろう。

(幸せって、いうのかな…)

そうだと、いい。









目を覚ましたのは、夜だった。カーテンが開きっぱなしの窓の外は真っ暗で、つけっぱなしの電気だけが、煌々と二人の空間を照らしている。アメリカもいつの間にか眠ってしまったらしく、だらしなく口を開けて横になっていた。正確な時間を知ろうと携帯電話を開くと、日付が変わる前だった。

「中途半端な時間に、置きちまったな…」

テーブルの上には、夕方に飲んだ紅茶のティーカップと、アメリカの食べ散らかしたお菓子のゴミでいっぱいだ。だらだらと時間を過ごしたことを、テーブルが物語っている。しかし不思議と、無駄な時間を過ごしてしまったとは思わなかった。
俺は立ち上がり、部屋の寒さに身震いした。タイマー式のエアコンはいつの間にか切れていて、しんしんと雪が降り積もる夜は、冷え切っていた。速足でカーテンを閉めに行き、すぐにまた毛布に戻る。一歩でも絨毯から出ると、底冷えした床が足の裏から体温を奪っていく。ほんの数秒のことで冷えてしまった足の先を指でさすりながら、俺は寝息を立てているアメリカを見た。

「…なんだっけ」

何か、寝る前に話していた気がする。なんだったか忘れてしまったが、とても幸せな気持ちになった気がする。

「まぁ、いいか」
俺は部屋の電気を消し、再びまぶたを閉じる。いつもならベッドに戻るためにアメリカを叩き起こし、ちゃんと就寝するのだが、今日に限ってはもうどうでもよかった。眠かったからじゃない。ただ、この今の雰囲気を壊したくなかったのだ。これがヒキコモリってやつだろうか。

「…アメリカ」

薄暗くなった部屋で、俺は小さくつぶやき、一度は横になった体を再び起こす。整った、まだ幼さの残る顔に、そっと顔を近付ける。規則正しい呼吸が、こちらまで届く。アメリカの頬に、そっと手をあてる。暖かい。

そしてそのまま―――。

「おやすみ」

囁くように言って、俺はアメリカに背を向け、今度こそ目を閉じた。




作品名:【米英】冬生活 作家名:瀬戸ちなみ