桜の守護者
最初の出会い。
「鉢屋、そっちの首尾は?」
「問題ないですよ。誰に聞いてるんですか?」
「愚問だったね」
クスクスと笑いながら伊作は持っていた扇をたたむ。
「今回の妖はどうってことなかったですね」
「そうだね。もらった情報よりは弱かった」
依頼によればもう少し手ごわいはずだったのに。だが、来たときには既に何かの干渉が入っていたのか妖達は息を潜めていたのだ。
「まあ、楽だったし。いいかな?」
「そうですね」
二人はその場を去ろうとしたその時だった。先に気が付いたのは伊作。
「…桜?」
手のひらに乗ったのは紛れもなく桜の花だった。
「なんで、桜が今の時期に?」
まだ雪が降る時期に次の季節の物があることがおかしい。だが桜の花弁は次々と二人に降り注ぐ。雪と交ざり、幻想的だった。
「鉢屋、原因を見つけるよ」
「はい」
二人は桜が降ってくる方向へと歩いていった。
二人がたどり着いた場所は、桜の老木がある場所だった。
「…先輩、ここって」
三郎の言葉に伊作は頷いた。
「依頼のあった桜だね」
今回の依頼はこの桜の老木を助けること。妖に乗っ取られた桜を解放してほしい、それが依頼のだった。
「もう救われてますね。桜」
「ああ、でも誰が…」
その時、桜と雪が風に吹かれて吹雪となった。
「うわ…っ」
「…え」
そして、聞こえたのは歌声。
「声が聞こえる?」
「誰が…こんなとこで」
桜と雪の吹雪がやむと、桜の下に誰かが桜の枝を手に取って立っていた。そして、その人物が歌を歌っていた。
「先輩…」
「綺麗だな…」
「ええ…」」
夕陽の髪の色を持つ青年は桜を撫でる。その桜はその青年の力でいつしか桜を咲かしていた。
「え…」
「うそ…」
先ほどまで咲いていなかった桜の老木は小さいながらも花を咲かしていた。だが、先ほどの桜吹雪はなんだったのか…。
「伊作先輩」
「ああ…」
二人はその青年に近付こうとした。が、それは桜に阻まれる。
「これは…」
「なんだっていうんだ!」
二人はそこを動くことが出来ない。だが、声が聞こえた。
『…退魔師さん、この桜のことお願いします。もう、大丈夫だから』
そういって、桜は消えて行った。二人は消えていくその人物に手を伸ばす。
「待って!」
「待ってくれ!」
しかし、それは無駄に終わる。桜が消えた時そこには誰もいなかった。どうして、二人が待ってと言ってしまったのか二人にもわからなかった。
それが桜の精霊と、退魔師との最初の出会い。