ときを刻む花
「と、いうわけなのよ。」
リナはこの夕焼けに染まるこの神殿について一通りのことをざっとゼロスへと説明を終えた。
腕組みをした黒髪の男性ゼロスは興味深そうに、リナの話を聞いていた。
「ふむふむ。
リナさんは、どうしてもこの神殿の中に入りたいわけですね?
リスクを冒しても?」
腕組みをしながら、ゼロス。
片目をちらりと開けて少女を見ると、「なによ。」と、強気な声が返ってきたので、彼は「いいえ。何でもありません。」と、答えた。
でも、かたくなにこの神殿まで来た意味を言おうとしない少女の表情が気になり、
「でも・・・そんなにあなたにとって大切なものがここにあるんですか?」
もう一度確認をした。
「そうよ。私にとって今必要なものがここにあるのよ。」
少女はゼロスの目線を反らすと、
「あんたこそどうしてここにいるのよ!?」
と、言い返した。
どうやら、意地でもここに来た理由はこの黒髪の青年には告げる気はないらしいことを彼は悟り、右の口端を少し上げニッと笑った。
少女は何かを隠している。心の中を読まなくてわかる。
そんな感じの笑いだった。
その笑顔に気圧されしながらも少女はその話題から反らしたそうだった。
「あたしのこの神殿の奥に入るまでの理由は別にいいわよ!
あんたに関係ないでしょう?
そもそも、あーんただって、この神殿に用があるんでしょう?
じゃないとあんたがここにいるわけないじゃない?」
その言葉を受け、ゼロスは微笑んだ。「それはそうですね。」とつぶやいて。
そして、自分の方頬をぽりぽりと人差し指で掻いた。
「そうですね。
僕は理由がないとこんな辺鄙な場所なんかに来たりしませんよね。
もちろん理由はあります。」
そして、ゼロスは錫杖を片手に栗髪の少女に向き直った。
「何なのよ?教えなさいよ!
それは秘密ですはなしよ。」
リナはそんなゼロスの様子に、腕組みをして、念を押しながら言い放った。
少女はずいぶんと慇懃無礼な態度だ。
でも、この青年は少女のその態度にはいつも慣れっこだ。
「はは!
先手必勝ですね。リナさん。
僕には、あなたの方が十分理由をごまかしているように見えるんですけど・・・。」
そして、片目をつぶりウインクをした。
「ふん!」
リナの素直じゃない態度に、ゼロスは小さく笑う。
「そうですね。
僕は、もちろん獣王様のご命令で、この神殿にある宝を探れと仰せつかったので、こちらに参ったという次第です。
そうしたら、たまたまリナさんが先客でいらしていて、神殿の入り口を出たり入ったりしているものでしたので、それを眺めていたんです。
はい。」
どうやらこの青年は少女が神殿に来てからの行動を終始観察していたらしい。
で、少女がこの神殿の問題にぶつかり、頭を抱えているのを面白がっていたに違いない。
この青年の性格はそういう奴だ。
「な・・・!あんた、あたしが困っていたのを黙って眺めていたのね〜〜!
それで手助けもしなかったのね・・・
まったく・・・まあ、いいわ。
じゃあ、あたしと一緒じゃない?目的は。
この神殿にお互い手に入れたいものは違えど、おそらくその欲しいものとは神殿の奥地にあるに違いないってわけね。」
「ええ。リナさん。あなたの言うとおり。きっと、そうですね。
でも、その宝の利用の仕方は僕とリナさんとでは違いますね。」
「な・・・なんでもいいでしょう?
手に入ればいいじゃない。」
リナはこの魔族の青年にまるで弱みを握られたような感覚に陥って、下を向いた。
「とにかく、あたしが神殿の入り口を出たり入ったりしてうろうろしていたのには、それなりに理由があるの!」
「ほぅ。どんな理由なんです?」
ゼロスは手を顎にやった。
「神殿の中が・・・真っ暗なのよ!」
一瞬その言い訳に、ゼロスはきょとんとした。
いつも大魔道士と豪語している、この少女が。神殿が真っ暗なだけで、入り口でうろうろしていたのだろうか。
ゼロスはリナを見た。
うそをついているようには思えなかった。
「・・・。
わかりました。
とりあえず、神殿の入り口まで行ってみましょう。」
そう言って、青年は赤く染まる神殿を見た。
そして、錫杖を手に黒髪の青年は神殿の入り口まで歩き始めた。
その後ろを栗髪の少女は追った。