こらぼでほすと 約束7
機体は全機ロールアウトしただろう。エクシアの太陽炉が組織に戻ったら急いで、そのマッチングテストもしなければならない。そう考えれば、イアンはハロ製作なんてしている暇はないはずだ。それに、ハロは一体ずつが独立したAI知能を有しているもので、普段から修理や整備も担当している。一体でも戦闘後は必要なものなのだ。
「アスランが作れるから、もし必要なら、こっちで調達する。」
「ああ、そうだったな。」
「他も見学しようぜ。」
「いや、ここで十分だ。あんたと話しているのが楽しい。」
目の前の青々とした大水槽を眺めていた黒子猫は、親猫のほうに振り返り笑いかける。あと少しで休暇も終わる。しばらくは、親猫と、こうやってべったりしていることもない。以前は、一緒にミッションを遂行していたが、今度は別々に戦う。刹那は死ぬつもりはない。なんせ、親猫の実弟の生命も守らなければならない。気楽に死んでいられる身分ではなくなった。
「せっかくなんだから、ちょっとは移動しようぜ? それに喉は渇かないか? 」
「何か飲み物を買ってこよう。」
「だから、一緒に行けばいいんだって。ほら、カフェテリアとかが何箇所かあるから。」
案内マップを見て、親猫が勧めるので、ようやく黒子猫も立ち上がる。軽く何か腹に入れておこう、と、親猫が言って歩き出す。その右側の腕をとって刹那も歩く。
カフェテリアから海を眺めてのんびりとしていたら、あっとい間に待ち合わせ時間になった。エントランスに下りてミュージアムショップまで行く前にハイネと落ち合った。そこから、クルマで移動して、なぜかヨットハーバーでクルマは停まった。
「なあ、ハイネ。花火は、ここからじゃ見えないだろ? 」
距離がありすぎて、流石に、ここからでは、と、ニールが声をかけたら、いやいや、と、ハイネは手を横に振る。クルマを降りると、目の前には大型クルーザーが停泊している。
「これで、打ち上げ地点の近くまで行って、海から鑑賞するんだよ。これなら、人ごみに遭遇することもないし帰りも渋滞もないからさ。」
ハイネの説明で、ようやく納得がいった。アスランが手配するといったのは、このクルーザーのことだったらしい。タラップを上がると、アスランとキラが出迎える。
「ニールと刹那は二階のラウンジを使ってください。食事も用意してあります。」
「はい? 」
「刹那は、ふたりっきりがいいよね? 」
「ああ。」
「ということですから。」
刹那がニールと二人で過ごしたいと言っていたから、ぎりぎりまで、そういうことにした。花火が終わったら、降りて合流してもいいし、誰とも逢いたくないというなら、そのままハイネがアッシーで送り届ける予定である。
「明日の夜に三蔵さんと悟空は帰ってくるので、寺へ戻ってください。マンションは、そのままにしておいてください、ニール。クリーンサービスを手配してますから。」
「いや、掃除くらいしておくさ。」
「でも、寺に戻ったら忙しいよ? ママ。悟空が帰ってくるんだから、夜食の用意とか用意とか用意とか? 」
キラの指摘に、ああ、と、ニールも笑う。今まで、のんびりしていたが、悟空が帰ってくれば、そうそうのんびりもしていられない。なんせ、人の五倍は軽く食べるのだから、量も生半可ではないからだ。それに、後から宅急便で洗濯物も山と届くだろう。
「寺へも俺が送るからな。勝手に真夏の劫火に焼かれるんじゃないぞっっ、ママニャン。」
ハイネが、そう言って大笑いする。日中に、ふらふらと寺へ帰られたら、絶対に途中でダウンする。ハイネも寺へ居候するつもりだから、わざわざということでもない。これから三日は、ハイネも休養する予定だ。その後、刹那と共に宇宙へ上がるからだ。
キラたち以外とは顔を合わせずに、二階のデッキへ上がった。ゆっくりとクルーザーは岸壁を離れ動き出している。二階の船室は、こじんまりしているものの、マンションの居間ぐらいの広さがあり、すでに食事が用意されていた。花火は後部甲板から鑑賞できるので、そちらへ出てください、と、説明を受けている。まだ、夕暮れの時間で、宵闇でもない。軽くおやつを食べたから、空腹でもないので、その後部甲板に刹那と一緒に出た。空調のある船室から一歩出れば、じっとりとした湿気を含んだ暑い空気になる。だが、クルーザーが速度を上げているから、その風は心地良いものだ。
「あれが、さっきの水族館だ。本当は遊園地も併設しててさ、今度は涼しい時期に行こう。それなら、遊園地も付き合える。」
背後で小さくなっていく観覧車を指差したら、黒子猫も、「ああ。」と声を出す。階下からは大きな声が聞こえているから、年少組が騒いでいるのだろう。
「なんなら、下に降りるか? 」
「いや、ここでいい。花火が終わったら合流する。・・・あんたは部屋に入ったほうがいいんじゃないか? かなり温度が高いぞ。」
「小一時間かかるって言ってたな。ちょっと横になってるから、おまえさんは好きにしな。」
昼寝もしていないし、午後から結構な距離を歩いている。少し休んでおこう、と、ニールは船室に入る。ぐるりと船室の端を囲むようにソファがあるから、ごろりと、そこに寝転がった。
・・・・うちは普通じゃないっていうのを、うっかり忘れるな・・・・・
たかだか花火見物に大型クルーザーを借り切るというのが、すでにニールには理解できないセレブさ加減だ。まあ、キラやアスランは雑踏なんかに出て行くのは危険すぎるから、こういうことになるのは理解できるが、それにしたって豪華なクルーザーだ。庶民派貧乏性のニールには、考え付かないのも無理はない。組織のエージェントである王家のお嬢さんなら、こういうもんなんだろうな、と、考えて目を閉じた。
ドオーンッッ
という音と、突然に身体の上に重しが乗っかった衝撃で、ニールは目を開けた。目前には黒子猫の顔だ。緊張した顔で、こちらを見ている。
「敵襲だっっ。ニール、動けるか? 」
ドオーンッッ、ドオーンッッと立て続けに聞こえる音と、刹那の顔を見比べて、ニールは噴出した。
「ニールッッ。」
刹那は背後の光に気付いていないらしい。確かに爆薬の弾ける音ではある。だが、これは違うのだ。テレビで見たのより大きな音がしているが、爆破しているのではない。
「刹那、これは敵襲じゃない。・・・ほら、窓の外を見ろ。」
くいっと黒子猫の顎を掴んで、窓のほうへ向けてやった。すっかり外は暮れていた。窓の外は、激しい音と同時に青や赤の色が踊っている。
「あれは、なんだ? 」
「花火だよ。寺でやったヤツの大きいヤツだって説明しただろ? 甲板に出よう。ここからじゃ見えない。」
黒子猫を立ち上がらせて、ゆっくりと起き上がった。本当に間近にいるらしく、音と同時に光が弾けている。後部甲板に出て、空を見上げると大輪の白い花がいくつも咲いていた。
「ニール、これが花火か? 」
作品名:こらぼでほすと 約束7 作家名:篠義