サイレン
廊下の高い天井にわんわんと反響するほどの大声。
聞き慣れた声、聞き慣れた蔑称。言われた当人もうんざりとした表情を浮かべただけで、そのほかに特に思うことはないようだった。セブルスは手を引き、それからはっきりと軽蔑を乗せて、片頬だけで笑いながら振り返る。
「理性が梗塞を起こしているくせに人語らしきものを操るとは驚きだ」
「うるせえ!そこをどけ!」
つかつかと足音高く近付いて、シリウスは問答無用でリーマスの腕を掴み、ぐいと引き上げた。
「お前もお前だ!どこでも寝てんじゃねえ!」
急に立ち上がったせいで暗くなった視界に、セブルスが小さく頷いたような気がして振り向くと、彼は慌てて目を逸らした。リーマスがセブルスを気にかける様子なのにまた腹を立てて、シリウスは腕を掴んだままその場から足早に立ち去ろうとする。教科書はどこにやったんだ、とシリウスが呟くのを耳に留めて、セブルスが顔を上げた。
「おい、まさか授業に出る気じゃないだろうな?」
「あ?」
シリウスはちらりとリーマスを見る。おぼつかない足で立ち握力の殆どない手でシリウスのローブを握り返して、リーマスはにこりと笑った。シリウスは頷いて、セブルスに視線を流した。
「だ、そうだ。じゃあな」
「・・・セブルス、ありがとう」
リーマスが笑顔をそのままセブルスに向けると、シリウスは目を見開き、それから何も言わずにリーマスを強引に引きずった。セブルスが何か言いかけたけれど、それを確認する間もなかった。リーマスの足がもつれようが待ってと声をかけようが、お構いなしにシリウスはリーマスを引きずって歩く。