こらぼでほすと 約束9
アスランが、それとなく家に入るようにニールを誘導する。それを見送ると、悟空は洗濯物を干し始める。
「明日、水掛け合戦と花火するんだろ? キラ。何時から? 」
「三時ごろから準備して、水掛けて遊んだら休憩して晩御飯食べて花火して八時にラボへ出発。」
「俺は残るぜ。」
「うん、そうしてもらうほうがいいよね。あと、トダカさんが来るから、ママの横で寝てくれるって。」
「そりゃ有り難いな。さんぞーは、あんまりやりたがらねぇーし、俺、寝相が悪いからさ。」
誰もいないなら、亭主だって女房の傍で寝てくれるのだが、なかなかウンとは言わない。そして悟空は、ベッドを一晩で三百六十度回転するほど動きのある寝相だ。とてもニールと一緒に寝られるような寝相ではない。いつもはハイネが一緒に寝ているのだが、今回は刹那のカモフラージュと諜報活動で留守をするから、どうしたもんか、と、悟空も考えていた。最終的に誰も居ないとなれば、坊主がどうにかすんだろうとは思っていたが。
「ということだから安心して? 刹那。ママは僕らが、うーんと世話させておくからね。」
「そうそう、おまえがいない間は、俺が代わりに看病もしておくから、こっちのことは任せとけ。」
「ありがとう、感謝する、キラ、悟空。」
「きみたちの再始動を支援しているのは、僕らだけじゃない。三大大国の思惑だけで纏まった連邦に対する反発は、かなり強いんだ。ラクスが、そういうところの連携は調整してくれているから、いずれ、そちらの勢力も共闘することになるかもしれない。」
「まあ、俺は難しいことはわかんないけど、やりたいように暴れて来い。」
キラも悟空も、テロリストである刹那を否定しない。その考えは間違っていないと思うからだ。存分に、今の連邦を引っ掻き回してアローズを瓦解させればいい。そこから、新しいものが出来上がる。今度こそ、もう少し長い平和というものに浸りたいから、新しいものに手も入れるつもりだ。まずは、組織が台頭して再始動してくれなければ、何も始められない。世界を変えるというのは、簡単なものではない。
「わかっている。俺なりに世界の歪みは確認したつもりだ。もう一度、世界に変革をもたらす。それが、俺たちの理念だ。」
「オッケー、詳しい話は明日、ラボで打ち合わせをやろう。データは揃えたから。それまでは存分に特区の夏を楽しんで。」
さあ、お昼ご飯を食べたら、ママとお昼寝だぁーと、キラは家へと戻っていく。ここのところのキラはアスランと共に、ラボで作業をしていたから、のんびりとしていなかった。とりあえず、親猫と昼寝をしたら店へ出て、その後、またラボでの最終チェックが待っている。のほほんとしているように見えているが、キラは刹那の出発に全精力を注いでいる。エクシアを発見されずに、宇宙に上げるのが、キラが直接手伝える最後の仕事だからだ。
翌日、ハイネはプラントへ仕事だ、と、朝から出かけた。実際は、キラたちが戻るまでにラボで自分のMSの最終調整の仕事があるからのことだ。今夜から刹那は出発するので、親猫のほうは何やら準備をしている。となりには、ちゃんと黒子猫がくっついていて、黒子猫に説明しつつ荷物を纏めている。
「どうせ、一ヶ月は風呂にも入らないんだろ? だから、適当に着替えはしろ。下着とかインナーは、ここに用意してるからな。」
今までの刹那の所業から考えて、どうせ宇宙に出ても着替えることも風呂も考えないはずだ。だが、衛生上、一ヶ月も下着を替えないなんていうのは、もう親猫にしてみたら心が痛すぎるので準備だけはした。大きな風呂敷に、それらを用意して包んだ。宇宙に出れば、機密服だから洋服は必要ではない。とりあえず下着やらインナーやらをいくつかセットしておく。衛星やコロニーなんかに侵入する場合を考えて、洋服も一揃えした。ぎゅっと風呂敷を結んでしまえば準備は完了だ。
「後は、これ。出かける時は、これに着替えていけ。」
真新しい服一式を、それとは別に用意する。これは刹那が戻る前に用意したものだ。サイズはぴったりと合っている。組織に戻れば、あちらに服はあるだろうから、それまでの繋ぎだ。だから高いものではない。スーパーで適当にチョイスしたものだ。
「これでいいだろ? 」
今、着ているのでいいだろう、と、黒子猫は言うのだが、親猫はくしゃくしゃとその黒い髪を撫でる。
「それは草臥れてるしサイズがちょっと小さいからさ。おまえさん、ちゃんとしてれば格好いいんだぞ? パリッとしたので行け。」
毎回、用意しているものを刹那は着ているのだが、去年の夏のものは、さすがに小さくなっているし、何度か洗っているから、ちょいと草臥れてもいる。成長しているのだと、それを目にして親猫は喜んでいるのだが、さすがに、それで出発させるのはイヤだったらしい。
「誰に接触するわけでもないんだが。」
「それでも、俺がイヤなんだよ。」
「わかった。出かける時に着替える。」
後の必要なものはアスランが用意しているだろう。だから、親猫にできるのは、ここまでだ。
「よしっっ、布団でも干すか。」
いつも通りに、親猫は寺の用事をする。特別なことをするつもりはない。いつものように送り出して、いつものように帰りを待っている。黒子猫も、そんな感じらしく、布団干しの手伝いをしている。しばらく直接には逢えないが、どちらも全力で戦うだけだ。
おやつの時間に、騒々しい一団がやってきた。悟空と刹那がスイカを齧っているところに年少組が登場だ。
「僕もスイカ。」
「はいはい、準備してある。」
夏の定番おやつを用意してあるから、好きなだけ食え、と、ニールも卓袱台に、それらを運んでくる。スイカだけではなく、ちゃんとホットサンドやプリンなんかも用意してあった。
「水掛け合戦って、何をするんだ? シン。」
「これに水入れて投げ合うんだ。当たると破裂するから、びしょびしょになってるヤツが負け。」
ヨーヨー釣りの風船のようなものをシンが取り出して説明してくれた。チーム対抗だから、中の水に色をつけておく。
「それって着替えもだけど風呂も用意したほうがいいな。」
「着替えっていうか、先に白Tシャツに着替えておくんだよ、ねーさん。それでついた色がわかりやすいだろ? 後はホースでざっくり流しちゃえばいいんだって。夏だから、そのほうが涼しい。」
「ニール、バスタオルとか着替えも用意してますからね。」
「けど、パンツまでずぶ濡れするんじゃねぇーか? アスラン。」
「すぐに乾きますよ。晩御飯は本堂の前で食べれば、畳の被害もないし。」
色水とはいえ、食用の色粉を溶かすので人体の影響はない。ずぶ濡れでも本堂の前でなら板間だから濡れても問題もない。そこで適当に食事をしていれば、すぐに乾くし、そのまま花火もするつもりだ、というアスランの説明に、なるほど、と、ニールも頷く。普段から、こういうイベントを仕切っているアスランは、慣れているので準備も万全だ。
「寺チームとコーディネーターチームでいいよね? 悟空。」
「それ、どうやって勝敗を決めるんだ? キラ。あと、優勝したら、なんかあるのか?」
作品名:こらぼでほすと 約束9 作家名:篠義