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こらぼでほすと 約束10

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 山門から本宅のスタッフが大荷物でやってくる。食事の手配が届いたらしい。こちらです、と、ニールが声をかけて案内する。夏だから、あっさりしたものを用意してくれた。容器は、簡易なものだが中身は豪華だ。本堂の前の板間に、それらをセッティングすると、その頃に年少組も戻って来る。後に仕事があるからアルコールなしで、大騒ぎで食事にありつく。ようやく、その頃に日が暮れてきた。暗くなるのと同時に本堂の明かりをつけて蚊取り線香も焚く。
「アイシャさんもラボに行くのか? 」
「ええ、ニールのかわりにミオクルわ。」
 アイシャもコーディネーターなので、今回の作業に参加する。年少組だけだと花がないから、と、虎が、こちらに寄越してくれたらしい。
「俺は人数合わせでしたけどね。」
 頭にバスタオルをひっかけたダコスタは、ウーロン茶を飲みながらホットサンドを齧っている。いつもなら、ハイネが担当しているのだが、ハイネが忙しいからダコスタが依頼されたのだそうだ。
「ダコスタって、あんまり参加しないよな。」
「そうでもないんだけど、どうしてもハイネがニールの担当みたいなことになってますから。」
 さすがに自身のMSの最終調整となると、ハイネも人任せにはできない。おまえが行け、と、追い出された。
「別に、間男が一人増えたところで慌てないから、たまには遊びに来てくれよ? 家庭料理くらいは堪能させてやるからさ。」
「え? 俺も間男認定なんですか? 」
「間男でも居候でも。おまえさんも独り者だから、ハイネと似たようなもんだろ? 」
「まあねぇ、そう言われればそうですか。」
 ハイネが、何かと寺へ居候を決め込むのでダコスタのほうは遠慮していた。重なることはないといえど、常時、居候が居てはうっとおしいだろうと思っていたのだが、そうでもないらしい。

 腹が膨れたものから順番に花火を開始する。見栄えのあるドラゴンなんかから点火されて鑑賞しているほうは、のんびりとしたものだ。
「刹那もやっとけ。」
 悟空が手で持つタイプの花火を刹那に差し出した。こういうのは地上の夏ならではのことだから、刹那も火を点ける。以前にもやったことがあるが、この火薬は綺麗なだけだ。
「二十連発打ち上げいくぞぉー。」
 シンが打ち上げに点火して叫んでいる。ぽーん、ぽーんと音がして小さな打ち上げが上がる。船から見たものより威力は小さいが、それでもポンポンと色とりどりの光か打ち上がるのは綺麗なものだ。
 結局、各人が勝手に始めてしまったので、寺チームがどうとかいう優先権はなかったものになった。だいたい寺チームは、花火をしているのは悟空だけだからだ。刹那は、座っている親猫の背中にガバリと覆いかぶさり懐いている。
「もうちょっとやらせてもらえよ、刹那。」
「もういい。あんたがやれ。」
「俺は足元が、よく見えないから、ここで鑑賞する。」
「なら、俺も鑑賞する。」
 ぎゅっと腕に力を入れるので、親猫が、その黒子猫の腕を軽く叩いている。甘えておきたいのだろうから好きにさせておくことにした。大きな花火大会ほど派手ではないが、特区の夏の情緒というのは、なかなかいいものだ。坊主たちラボに行かない組は、それを肴にアルコールに突入している。
 黒子猫が、その坊主に視線を向けて、軽く会釈する。おかんを頼む、という意味だから、坊主も軽く手を挙げて応える。それを確認すると、また親猫に懐いて、ぐりぐりと黒子猫は頭で親猫の頬を擽る。



 そろそろ時間だから、最後に地上に設置して吹き上がる花火をキラとアスランが、たくさん用意して同時に点火した。シュワシュワと音をさせて吹き上がる花火が終わると、刹那の休暇も終わりだ。
「刹那、そろそろ移動しよう。荷物は? 」
 アスランが花火の後始末をしつつ、刹那に声をかけた。荷物なら、ここにある、と、脇部屋から親猫が運んでくる。
「着替えだけ一揃い用意しておいた。刹那、着替えろ。」
「いや、これから最終整備をするので、着替えないで、このままのほうがいいです。それなら、それも運びましょう。」
 整備をすれは汚れるから、とりあえず、このまま移動させる。刹那には仮眠を取らせて、その間に、キラたちもレーダーサイトの誤魔化しを仕掛ける最終準備をする。
 山門にクルマが音もなく停車した。本宅のスタッフが、予定の時刻に迎えに来た。本宅からラボへヘリで移動する。
「じゃあ、いってきます。」
 レイが刹那の荷物を持って、シンやダコスタと共に一台目に乗り込む。二台目は、ワンボックスカーでキラ、アスラン、アイシャと刹那だ。山門の前まで悟空とニールが見送りに出る。坊主たちも、一応、その背後からついてきていた。
「いってくる。」
 その見送りの人間たちを見回して、刹那は軽く頭を下げた。うんうん、と、悟空以外が了解、と、頷いている。おかんを頼む、と、いう意味だと、みな、理解していた。それから親猫に抱きついた。
「気をつけてな。」
「あんたも気をつけろ。」
「場所は違うけど一緒に戦うからな。」
「ああ、苦しい戦いだろうが勝ってくれ。俺も生き延びる戦いをしてくる。必ず約束は守る。」
「おう、待ってるよ。俺も約束は守る。」
 トントンと抱き締めた黒子猫の背中を軽く叩いて、自分から引き剥がす。いつもの通りに、お互いが動く。だから、黒子猫も、じっと親猫の顔を眺めてからクルマに乗り込んだ。
 クルマのテールランプが見えなくなるまで見送ると、まずは沙・猪家夫夫が引き返す。悟空は、ニールの横から抱きついて、「戻ろう。」 と、促した。いつものことだ。子猫たちが行ってしまうと、ニールは表情が消えてしまう。約束は守るためにするのが前提だが、守れなくてもするものだ。刹那もニールも、それを承知で約束と口にした。戻って来られるのか、待っていられるのか不確かな約束だ。それを考えると落ち込むのだが、横手からの高い体温に気付いて、ニールは少し微笑む。
「・・・・あれだけじゃ足りないだろ? 悟空。何か用意しようか? 」
「んーと、じゃあ、チャーハン。あと、ハヤシライスのルーって残ってた? 」
「あるよ。」
「じゃあ、それも。それから、まだ花火残ってるから、ママも一緒にやろうぜ。」
「ああ、そうしようか。」
 ゆっくりと悟空が誘導して山門から離れる。背中にはトダカの手がある。無理強いするような押し方ではなく、支えるように添えられている。坊主は何も言わず、戻り始めたサルと女房を確認すると踵を返した。
「今夜は泊めてもらうよ。」
「好きにしろ。」
 トダカが傍に寝るのなら、自分はベッドでゆっくりと寝る。今晩だけは、独り寝はできないだろうと思っていたら、ちゃんとお里が遠征してきてくれた。まだ、これからだというのに、女房は大丈夫なんだろうか、と、振り返る。
「なんですか? 」
「ダメなら里へ帰れ。盆には呼び戻すぞ。」
「いや、大丈夫です。それに、お墓の掃除やら、いろいろと忙しいから里に帰ってる暇はないでしょう? 」
作品名:こらぼでほすと 約束10 作家名:篠義