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こらぼでほすと にるはぴば

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 こちら、吉祥富貴では、朝からどったんばったんと大忙しだ。昨晩の試作品は、評判がよかったので、同じ様に製作している。二升のコメを炊き、一升ずつを、寿司桶に広げて、寿司酢をバラまき、混ぜつつ冷やす。横から、シンとレイが、団扇と扇風機で、コメを冷やしているし、ダコスタが、それを、しゃもじで混ぜて落ち着かせているなんてことになっている。これらに、基本の高野豆腐、かんぴょう、人参、レンコン、干しシイタケが、細かく刻まれて投入されて、それから、小さい寿司桶に分けて、焼きアジのほぐし身が入っているもの、ジャコが入っているもの、ノーマルそのまんま、というのに分けられて、さらに、生魚がトッピングされるものと、茹で海老がトッピングされるもの、とかいうふうに、いろんなバージョンのチラシ寿司になるので、かなり大掛かりなことになってしまった。店でも、これらを出すことになったから、お客様の分とスタッフの分も作成することになったからだ。

「買い出し部隊は、まだですかね? 」

「そろそろ戻ると思うんだがなあ。」

「ケーキが届いたぞー。」

「和菓子も届きました。」

 いろんな声が飛び交っている。家事能力皆無なキラは、パソの前に座っているが、こちらは、黒猫の動きを確認しているのと、毒電波頒布に余念がないらしい。今日から三日間だけは、何があろうと大人しくさせておききたいので、念を入れている。トダカと虎がひなあられを、小袋に少しずつ入れて、リボンで止めるなんて作業をしているし、鷹が、白酒の瓶を確認している。こういうお祭り騒ぎは、みんな大好きだから、不満なんてものはない。

「ねぇ、そろそろ来るよ? 八戒さん。」

 キラが、厨房まで、八戒に報告に来る。はいはい、と、八戒も手を休めて玄関へ向かう。まだ、完成していないが、それは構わない。これから、黒猫には、ひとつミッションをやってもらう必要がある。キラが報告してから十分も経たない内に、黒猫が現れた。

「刹那君、ひとつミッションです。ママの喜びそうなものを、ひとつ買ってきてください。ただし、食べるもの飲むものではないもので、お願いしますね。」

「なぜ?」

「今日は、ママニャンに贈り物をする日だからです。二時間以内で、お願いします。では、ミッションスタート。」

「ニールは、どこだ? 」

「マンションですが、勝手に出向いてはいけません。一旦、こちらに戻ってきてくださいね。晩ご飯を届けて貰うという、セカンドミッションが控えていますから。」

「わかった。」

 黒猫は、それで納得して、再び、外へ飛び出した。それを見送って、八戒は微笑みつつ、携帯で、亭主を呼び出した。

「サボって、寿司屋で一杯も、いい加減にしなさい。タイムリミットまで、時間がありませんよ? 」

 相手の言い分を、聞くこともなく、ぶちっと携帯を切って、さて、詰め込み作業をするか、と、踵を返した。

 亭主のほうは、なぜ、サボっている場所まで、バレるかなぁーと苦笑しつつ、ディアッカと店へ戻るために腰を上げた。

「千里眼でもあるんじゃないの? 八戒さん。」

「それはないと思うけどなあ。なんかバレるんだよな。」

 ちゃんと、仕入るべきものは仕入れた。発泡スチロールに入って、まだ、生きている。そろそろ戻らないと、本気の雷が待っているので、大人しく女房のご意見に従うことにした。





 二時間後、刹那が紙袋を、ひとつ、手にして戻ってきた。店の前には、ハイネが、クルマをつけて準備している。荷物が、かなりなことになったので、刹那共々配送することになったからだ。

「刹那、ママにうんと甘えておいでね。」 と、キラはニパッと笑いつつ、ひなあられの小袋を渡す。

「これ、春の和菓子なんで、おやつに食べてくれ。」 と、アスランが、可愛い菓子器に入った桜餅と鶯餅を渡す。

「これは、晩ご飯です。温め直すものがありますから、メモをニールに渡してくださいね。」 と、小ぶりのお重とその他を八戒が渡す。

「あまり飲み過ぎるのはよくないから、ほどほどに。」 と、トダカは、五合壜を渡す。

「それを飲むのに必要なものだ。ガラスだから割るなよ? 」 と、虎が、プチプチシートに包んだぐい飲みを渡す。

「ケーキだ。」 と、イザークが、ぶっきらぼうに差し出す。

 もう、なんていうのか、いちいち説明するまでもないのだが、そうやって渡したいとスタッフは、自分たちが選んで用意したものを、刹那に渡してクルマに載せる。

「ゆっくりしておいで。きっと、ママも喜ぶから。」

 最後に鷹が笑いつつ、黒猫をクルマに乗るように勧める。ハイネは、すでに、運転席でスタンバイの状態だ。




 荷物をマンションの部屋まで、一緒に運びこむと、ハイネも、じゃあな、と、戻ってしまう。マンションの玄関には、黄色い花と、四匹の猫の人形がある。久しぶりに帰って来たな、と、刹那は、荷物は、そのままにして、親猫の部屋に入った。

「あれ? 」

 人の気配に敏感な親猫は、ごろごろしていたベッドから飛び起きたが、相手が黒猫だから、びっくりして声を出した。もしかしたら、とは思っていたが、存外早かったからだ。本当は始まって終わるまで逢えないはずだったが、大事件のお陰で、戻って来られる時間ができたのだ。黒猫は出かけた時と変わらなかった。それに、ニールも安堵する。

「具合が悪いのか? 」

「違うよ。昨日、店が忙しかったんで疲れただけだ。・・・・・おかえり、刹那。」

「ただいま。」

 ああ、メシを運んでくるというのは、刹那のことだったのか、と、ハイネの言葉に納得した。いつもなら、誰が運んでくるかまで言うのに、今日は名前を言わなかったからだ。

「メシは、まだか? 」

「ああ、預かってきた。」

 玄関に置いているものを運ぼうと刹那が歩き出すと、親猫もついてくる。荷物は、かなりなことになっているので、親猫もびっくりだ。

「何? これ。」

「メシとおやつらしい。あと、酒。」

「酒? 」

 とりあえず、居間へ運ぶかと、ふたりして荷物を運んだ。ひとつずつ、開けてみる。お重は、錦糸卵ときぬさや、ぴんくのでんぶ、それに、茹でた海老が乗せられたキレイな配色のチラシ寿司だった。二段目は、それに見合うようなおかずが、ちまちまと詰め込まれている。菜の花のおひたしとか、鯛の渦潮巻きとか、イセエビのマヨネーズ合えとか、こちらも豪華だ。

 お吸い物は、出汁と具が、別々に用意されていて、ご丁寧にも、塗りのお椀まである。メネギと白魚と大きなハマグリという具だ。

 菓子器には、桜餅と鶯餅。それから、ひなあられ。お酒は、日本酒で、切り子ガラスのぐい呑みが付属されている。

「今日は、なんのイベントなんだ? ニール。」

「ひな祭りっていって、キラの出身地域の女の子のイベントなんだと。だから、あの人形も、それなんだ。」

 リビングのチェストの上にある極東の人形を、ニールが、顎でしゃくって指す。なるほど、それで、こんなに派手なことになってるんだな、と、刹那も納得する。