東方疑異伝
烏騅は深呼吸をしてから勢いよくドアを開け放った。
「すいません、遅れま……わっ」
カッと音がし、何かがドアの縁に高速で突き刺さった。
恐る恐る見るとそれは抜群に切れ味の良さそうなナイフだった。
「ひっ……」
「烏騅……随分のんびりだったわね」
咲夜はナイフを数本構えている。
顔は満面の笑を浮かべているが、妙にどす黒いオーラをただ寄せながら。
「ご……ごめんなさい! ごめんなさい!」
烏騅は必死に頭を下げる。
彼女がどう反応するのかがわからないが、頭を地面に擦りつけるように頭を下げながら「ごめんなさい」を連呼する。
「ふぅ……まぁ案内しなかった私も悪いんだし、体罰は勘弁してあげるわ」
『ふぅ』とため息をつき、咲夜は仕方なさげな表情を浮かべた。
ついさっきの一撃が仮に当たっていたら冗談ではすまなかったのだが、それを突っ込む気にはなれなかった。
「ホッ……」
「ただし、ちょっと罰を与えるわ」
烏騅がホッとして胸をなでおろした直後、また先ほどの某冥王よろしく満面の笑顔を浮かべながら殺気が充満してる雰囲気を纏わせた。
「えっ……? えっ……そんなぁ……」
崩れ落ちた烏騅に対して咲夜は薄く微笑んだ。
「安心しなさいな。 痛みを伴う罰ではないから。 買い出しに行って貰いたいんだけど、いいかしら?」
「買い出し……?」
烏騅は不意を突かれたように気が抜けてまた崩れ落ちた。
「えっと……そうねぇ、また迷われても厄介だから……烏騅、ちょっと私の後について来て」
咲夜はいつの間にか出入口のところまで移動して手招きをしている。
「早く屋敷の中と人里までの道のりぐらいは覚えてね」
「あ……あぁ」
部屋を出て烏騅は咲夜の後について行く。