東方疑異伝
「? 何言ってるかわかんねぇが………いきなり剣持って相手しろとか『馬鹿』か?」
その瞬間、レミリアの中で何かがキレた。
「っ……いけない…レミィ!」
パチュリーはそのことにいち早く気づき、図書館の本と自分のまわりに防御の魔法を慌ててかけ、部屋の隅に向かって走る。
「馬鹿? この…私に向かって馬鹿ですって…・・・私を………舐めるのもいい加減にしなさい!」
レミリアは自分の周囲に弾を浮ばせ、『彼女』に次々と投げつける。
「…っ!?」
彼女は本棚の影にとっさによける。
刹那、彼女がいた場所には轟音と共に小さなクレーターが生じていた。
「っ!! おいおいおいおい、なんなんだこりゃ」
『彼女』はできたばかりの小さなクレーターを眺める。
「あらあら? よそ見していて……いいのかしら?」
いつの間にかレミリアは、『彼女』の後ろで弾をまわりに浮かべてクスクス笑っていた。
「!? いつの間に…」
「くすくすくす…小便はすませたかしら? 神様にお祈りは? 私に追い回され、果てに部屋のスミでガタガタ震えて命ごいする心の準備はOK? ふふっ……」
威嚇程度のつもりで撃ったであろうレミリアの弾のいくつかが『彼女』の足を血の線を引きながら通り過ぎる。
「い…っ……な…な…?!」
突然の足の痛みに耐えられず、彼女はしゃがみこむ。
「さあ・・・・・・どうしたの? まだ足に少しかすり傷を負っただけよ! かかってきなさい! 能力を出しなさい! 弾幕を形成しなさい!足に布を巻いてでも立ち上がりなさい! そこにある武器を取って反撃しなさい! さあ夜はこれから! お楽しみはこれからよ! ハリー!ハリーハリー! ハリーハリーハリー!」
まるで某機関の吸血鬼である。
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しゃがみこむ彼女の側には手頃な剣が飾ってあったが、『彼女』は剣は取らずに自分の服の腕部分を破いて足に巻き、歯を食いしばりながら立ち上がる。
「面白い冗談じゃない……なぜ剣を取らないの?」
「っ……何言ってんだかわかんねぇよ。 いきなり剣持って戦えだとか、弾幕だせとか意味わかんねぇよ!」
「クッ…アハハハハノヽノヽノヽノ \ / \/ \! 貴女本当に面白いわね? クスクス………そうねぇ…まずは5分のチャンスをあげるわ」
「?」
「ぶち殺すのは至極簡単よ。 だけどそれじゃあ私の気は晴れない・・・・・・だから」
弾が『彼女』目掛けて飛んで行く。
その弾の着弾を待たずにレミリアは次々と弾幕を打ち出すが、彼女も間一髪のところをスレスレで避ける。
「いたぶってあげるから、殺されないように努力なさい!」
「くっ……いったいなんの悪夢だよこれは……」
『彼女』は悪態をつきながらも迫り来る弾幕を避ける。
その度に髪の一部は焦げ、肌には赤い線が引かれて紅い水が滴り落ち、服がボロボロになる。
「アハハハハハハハハ…楽しい、楽しいわ。 なんで怒っていたのかを忘れるぐらいにねぇ!!」
レミリアは必死に弾幕を避ける『彼女』の姿に楽しさを覚えていた。
(どうやったらあいつに当てられるの?)
(どうやったらあいつが屈伏するの?)
(どうやったらあいつは壊れるの!!)
「くっ…しまった…逃げ場が…」
『彼女』は避けるのに無我夢中で、図書館の本棚の袋小路部分に逃げてしまった。
「まだ3分よ? これで終わりではないでしょ? さぁ…貴女の意地を見せてみなさい! 私をもっと楽しませなさいよぉ!」
レミリアは大量の弾幕を彼女目掛けて撃つ。
避けられる隙間は存在するが、空でも飛ばなければ不可能なほどの弾幕である。